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25 小さな出会い

 ぐるりと部屋の中を見渡すけれど、暇潰しになるような物は何も無い。


 こんな事なら予め、本なり、刺繍なり、時間を潰せる物を用意して貰うんだったわ。


 国王陛下から『部屋から出るな』と言われている以上、王宮の中を動き回るわけにもいかない。


 仕方なく窓に近寄って外を眺めてみる。


 窓の外には庭園が広がっていて様々な花が咲いているのが見える。


 外の新鮮な空気を吸いたくて窓を開けてみると、微かに花の香りが漂ってきた。


 椅子を持ってきて窓際に置いて、ぼんやりと外を眺めていると、外の空気に鼻が刺激されたのか思わずクシャミをしてしまった。


「クシュン!」


 ポンッという音と共にまたしても猫になってしまった。


 よりによって一人の時に猫になるなんて…。


 せっかくだから、この姿のまま庭を散策しようかしら。


 人間の姿のままうろついて人目につくよりは、猫の姿の方が見つかりにくいわよね。


 私は椅子から窓に飛び移ると、そこから庭へと降り立った。


 迷子にならないように今出て来た場所を確かめると、庭園の中を見つからないように歩き出す。


 猫の目線だから、何もかもが大きく見えてちょっと怖いわね。


 頭を上げて花を眺めながら歩いていると前方に四阿が見えた。


 少し休憩しようと、四阿に前足を乗せた途端、そこにいた人物と目が合った。


「あっ、猫? 何処から来たの?」


 そこにいたのは小さな男の子だった。


 歳の頃は7~8歳くらいの可愛らしい子だけれど、誰かに似ているような気がした。


 まさか人がいるなんて、猫目線じゃ見えなかったわ。


 驚きで固まっていると、男の子は椅子から降りて私に近寄ってきた。


「可愛い、何処から来たの? だけどお母様は猫が嫌いだから見つかると追い出されちゃうよ」


 そう言いながら小さな手で私の頭を優しく撫でる。


 しばらく撫でられるままになっていると、向こうから誰かがこちらにやってくる足音が聞こえてきた。


「オリヴァー、何処にいるの?」


 その声が聞こえた途端、男の子はビクッと身体を震わせた。


「お母様だ。早く何処かに隠れて」


 オリヴァーと呼ばれた男の子は、私を四阿から追い払うように押し出す。


 私は花壇の花の中に隠れるようにして、四阿を覗いた。


 オリヴァーが椅子に座り直すとそこへやってきたのはブリジットだった。


「あら、こんな所にいたのね。そろそろ家庭教師の先生が来られるわ。早く部屋に戻りなさい」


「はい、お母様」


「しっかり勉強するのよ。あなたはこの国の国王になるんですからね」


 ブリジットの息子という事はアラスター王太子の弟なのね。


 誰かに似ていると思ったらブリジットだったんだわ。


 だけど、オリヴァーがこの国の国王だなんて、どういう事かしら。


 まさかアラスター王太子を蹴落としてオリヴァーを王太子にしようとしているのかしら?


「どうして僕が国王になるんですか? アラスター兄上がいらっしゃるのに…」


 ブリジットの言葉にオリヴァーが聞き返すと、ブリジットは不敵に笑う。


「私に任せておけばいいのよ。お父様は私の言う事は何でも聞いてくださるの」


「でも…」


「いいから早く部屋に戻りなさい」


 ブリジットに半ば引きずられるようにオリヴァーは四阿を出て行った。


 私はこれ以上、庭園をうろつく気になれずに来た道を戻って行く。


 窓に飛び乗り部屋に入ると、そのまま床に降り立った。


 どうにかしてクシャミをしようとするけれど、なかなか上手くいかない。


 自分の毛に鼻を突っ込んで、刺激させるとようやくクシャミが出来た。


 手早く床に落ちている服に袖を通してようやく一息ついた。


 それにしても、さっきブリジットが言っていた事は本当なんだろうか?


 国王陛下はアラスター王太子を廃嫡してオリヴァーを王太子にするつもりなのだろうか?


 この話をアラスター王太子にするべきかどうか悩みながら、私は悶々と過ごした。

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