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2 捨てる神あれば拾う神あり

 閉ざされた裏口に駆け寄ろうとして、私は後ろ足の痛みに顔をしかめた。


 後ろ足を引きずるように裏口に近付いたが、扉は固く閉ざされたまま隙間すらない。


 扉を叩こうにもこの猫の身体ではそうもいかない。


 片足でガリガリと扉を引っ掻いてみるけれど、爪痕すら付かなかった。


 流石は公爵家、頑丈な扉を使っているわね。


 諦めてトボトボと後ろ足を引きずりながら、あてもなく歩き出す。


 どうして私はこんな猫の姿になってしまったんだろう。


 歩きながら考えを巡らせていると、不意に学園に通っていた頃の話を思い出した。


 あれは確か、魔術の講義の時間だったと思う。


 講義の中の雑談で先生はこんな話をしていた。


『この世の中には人を呪うための魔術もありますが、今はすべて禁術とされています。相手にかけた呪いを解呪された場合、その呪いが術者に跳ね返ってくるのです。皆さんはくれぐれも他人を呪ったりなさいませんように』


 呪いの魔術の中に猫に変化させるものがあるのかどうかはわからないけれど、それ以外にこの状況は考えられないと思う。


 確かに私は婚約者であるセドリック王太子に近付く女性に苦言を呈したりしたけれど、それは行き過ぎた彼女達の行動を諌めるためのものだ。


 けれど、そのせいでやってもいない事までも私の仕業だと言われるようになった。


 婚約者であるセドリック王太子も言い寄ってくる女性を非難する事もなく、さも私が悪いような態度をとる。


『ほんの少し、他の女性と話をしていただけなのに、そんなに目くじらを立てなくてもいいだろう。何も婚約者としか話してはいけないわけでもないのに…』


 確かにセドリック王太子は立場上、様々な貴族達と交流を持たなくてはいけないのはわかるけれど、それでも最低限のマナーというものがあるはずだ。


 セドリック王太子の隣に立つ者として努力をしてきたのに、昨日の夜会でセドリック王太子は私をエスコートせずに、私の妹のキャロリンと夜会に現れた。


 その瞬間、私はすべてを察した。

 

 私の様々な噂はすべて二人によって広められたものだという事を。


 そんな事をしなくても、正直に私ではなくキャロリンを好きになったと告げてくれれば良かったのに…。


 私だって好きでセドリック王太子と婚約をしたわけではない。


 昔からの慣例によって王家と公爵家との婚約が結ばれただけだ。


 だから両親にとってはわたしかキャロリンのどちらかが王太子の婚約者であればいいだけなのだ。


 だからセドリック王太子とキャロリンの婚約をあっさりと受け入れたのだろう。


 キャロリンは事あるごとに私を目の敵にしていた。

 

 一つしか違わないからほぼ双子のように育ってきたけれど、キャロリンにとって私は『目の上のたんこぶ』に過ぎなかったようだ。


 …お腹が空いた…


 あてもなく歩いていると不意にお腹が「くうぅ」と音を立てた。


 お腹も空いているけれど、それよりも喉が渇いて仕方がない。


 おまけに無理をして歩いているせいか、後ろ足がジンジンと痛みを増してくる。


 何処かで休みたい…。


 確か向こうの方に公園があったはずだ。


 あそこに行けば水が飲めるかも…。


 それにベンチで横たわって休む事も出来るだろう。


 そう思って通りを横切っていると、向こうから馬車が近付いてくる音が聞こえた。


 だけど足を痛めている私は走りたくても走れない。


 前世は車で、今世は馬車に轢かれて死ぬのかしら?


 近付いてくる馬の足に逃げる事も出来ずに立ちすくんでいると、馬がピタリと私の目の前で足を止めた。


 …た、助かった…


 あのまま馬に踏み潰されるかと思っていたが、どうやらすんでの所で助かったようだ。


 安心した途端、気が抜けて私はその場に倒れ込んだ。


 誰かに抱き上げられたのを感じながら、私は意識を手放した。

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