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17 マッドサイエンティスト

 アラスター王太子はお茶を飲み干すと立ち上がって私に手を差し出した。


「まだ疲れているとは思うけれど、一刻も早い方が良いだろう。僕について来てくれ」


 アラスター王太子の手を取って立ち上がると。ウォーレンが扉を開けて周囲を見回した後、コクリと頷いた。


 先程のブリジットがいるかどうかを確認したのかしら?


 部屋を出て廊下を少し戻った先の扉に付けられた魔石にウォーレンが手をかざした。


 淡い光と共にカチリと音がした。


「ここが僕の部屋だ。キャサリン嬢の部屋と一緒で登録した人物しか開けられないようになっている。さもないとあの女が夜這いに来るからね」


 アラスター王太子はサラリと言うけれど、それって大問題なんじゃないの?


「流石にそれは一国の王妃としては問題だと思うのですが…」


 それ以上言うと国王に対して不敬と取られかねないので言葉を濁すと、アラスター王太子は諦めたような笑みを見せる。


「言っただろ。父上はあの女に懐柔されているって。反王妃派がどうにかしようとしているが、父親のパクストン公爵が財務大臣を務めているのでね。皆自分の領地の事を考えて大っぴらに動けないんだよ」


 パクストン公爵が娘を使ってこの国を乗っ取ろうとしているのか、ただ単にブリジットが父親の立場を利用しているだけなのかはわからないけれど、どちらにしても褒められた事ではないわね。


 それはともかく、連れられて入ったアラスター王太子の部屋はすっきりと落ち着いた雰囲気の部屋だった。


 ただ一点を除いて…。


 部屋の中央にソファーセットがあり、大きな窓際にヘッド、壁には造り付けの本棚がある。


 そんな中、部屋の片隅の小スペースにポツンと扉だけが立っている。


(…これが本当の『どこでも◯ア』ね)


 明らかに不自然な状態で立っている扉について尋ねないわけにはいかないだろう。


「アラスター王太子、どうしてこんな所に扉があるのですか?」


「あ、気が付いた?」 


 こんなに堂々と置いてあるのに気付かない人がいれば見てみたいわね。


 当たり前でしょ、とばかりにちょっとムッとしてみせると、アラスター王太子はクッと小さく笑った。


「まあ、気が付かない方がおかしいよね。さっきの門と一緒で、この扉を開けると別の場所に出られるんだ。これを開発してくれた人の所に行って、キャサリン嬢の魔道具を作ってもらおうと思うんだ」


 先程の大きな門が出来るのなら、こういう小さな扉があっても当然よね。


 だけど、それをわざわざ自室に設置させるのはどうかと思うけれど…。


 それだけアラスター王太子にブリジットの魔の手が忍び寄っているって事なのかしら?


 もっとも『ドラ◯もん』のように『四次元◯ケット』から「どこでも◯ア~」とか言いながら出してこないだけマシかもね。


 アラスター王太子の後に続いてその扉に近付いた。


 扉には枠が付いていて、その枠の床部分に脚が伸びていて倒れないように支えてあった。


 うっかりするとこの脚に引っかかって転んでしまいそうだ。


「それじゃ行こうか」


 アラスター王太子は扉のノブに触れると「魔道具室へ」と呟いて扉を開けた。


 扉が開いた先にはこの部屋とは全く違う部屋が見える。


 大きな作業台の上に置かれた様々な道具や書類が乱雑に積まれている。


 そんな中、作業台に向かって何かを作っている人物が見えた。


 その人は私達が入ってきた事にも気付かず、作業に没頭している。


「ケンブル先生」 


 アラスター王太子が名前を呼ぶが、聞こえていないのか、返事どころかこちらを向こうともしない。


「ケンブル先生!」


 アラスター王太子が更に大きな声で呼びかけるとようやくその人は作業を止めて顔をあげた。


 髪の毛はボサボサで、顔には目の部分に双眼鏡のような筒が付いたゴーグルを掛けている。


(まるでマッドサイエンティストみたいだわ)


 ちょっとそんな事を思ってしまったのは本人には内緒にしておこう。

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