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11 二人の王太子

 門を抜けるとその先に家はなく、ただ街道だけが続いていた。


 最初はゆっくり走っていた馬車が徐々にスピードをあげていき、外の景色があり得ない速さで進んで行く。


 まるで車に乗って走っているような感覚に襲われる。


「あの、随分と馬車のスピードが速くありませんか?」


「普通のスピードでは時間がかかりますからね。町中以外では馬に肉体強化をかけて速く走るようにさせているんです。馬車にも揺れが少なくなるような魔法をかけています」


 アラスター王太子になんでもない事のように言われたけれど、それが普通の事なのか、この馬車に限っての事なのか私には判断がつかない。


「そうなんですね」


 それだけを返して外の景色を眺める。


 この調子だと国境門までは予定の半分くらいの日程で済みそうだわ。


 揺れが少ないとはいえ、ただ座っているだけというのも退屈で仕方がない。


 暇潰しにしりとりでも、と言いかけて止めた。


 この世界に転生して今までしりとりなんてした事がないのを思い出したからだ。


『何処でそんな事を?』と聞かれても答えようがない。


 アラスター王太子と話をするにしても何を話題にして良いのかさっぱりわからない。


 チラリとアラスター王太子に目をやると、私を見ている彼と目が合って薄く微笑まれた。


 何気に心臓に悪いから、そんな笑顔を向けないで欲しいわ。


「…あの、何か?」 


 私に言いたい事でもあるのかと思って声をかけるとゆるくかぶりを振られた。


「いや。こうしてキャサリン嬢と一緒にいられるのが嬉しくて、つい見惚れていたんだ。初めて会った時からキャサリン嬢はセドリック王太子の婚約者だったからね」


 そう言われて私は初めてアラスター王太子と会った時の事を思い返していた。

 

 エヴァンズ王国とコールリッジ王国では学生を対象にした留学が行われている。


 希望者を対象にしているが、相手国で問題を起こされても困るので、成績優秀者で品行方正な者にしか許可されない。


 時々、王族もその中に入っていたりするのだが、セドリック王太子は留学には興味がないらしく参加はしなかった。


 次期国王として諸外国の様子を見てくるのも勉強の一つだと思うのだが、私がそう進言しても聞く耳を持たなかった。


『別に僕が行かなくても代わりに行ってくれる者がいるじゃないか。彼等の話を聞くだけで十分だよ』


 そう突っぱねるセドリック王太子に私はこっそりとため息をついた。


(百聞は一見に如かずって言うのに、セドリック王太子にはそれがわからないのね)


 だから、アラスター王太子がこの国に留学に来た時はとても好ましく思ったものだ。


 しかも一度きりではなく、毎年のようにこの国を訪れてくれる事が非常に嬉しかった。


 それほどにこの国を気に入ってくれたのかと思うと非常に誇らしかった。


 そんなアラスター王太子が私を好きだと言ってくれるなんて…。


 もしかしたら毎年のように留学して来たのは私に会いに来ていたの?


 …まさか…。


 いくらなんでも自惚れが過ぎるわね。


 ないない、と頭の中の考えを打ち消していると、馬車のスピードが徐々に落ちてきた。


 どうやら街に近付いてきたようだ。


「この街で休憩しよう。座りっぱなしで疲れただろう?」


「いえ、大丈夫ですわ」 


 ほとんど揺れを感じないので、それほど座っているのが苦ではない。


 それでも馬車から降りた時は思わずホッと息を吐いていた。


 降りた先はこの街で一番大きなレストランだった。


 ここで食事と休憩を取るようだ。


 馬車を引いている馬達も、馬車から離されて御者に連れられて行った。

 

 万が一を考えてレストランでは個室を用意してもらった。


 クシャミをしたら猫になるなんて、人前では披露したくないものね。


 無事に食事を終えて再び馬車に乗り込むと、人目が無い事にホッとした。


 自分でも思っていた以上に緊張していたようだ。


 この呪いっていつまで続くのかしら?


 一生このままなんて絶対に嫌だわ。


 必ず元に戻る方法を見つけてやる!


 そう決意していると、向かいに座ったアラスター王太子が私の手を取った。


「キャサリン嬢。君に不自由な思いをさせて済まない。君の呪いは僕が必ず解呪してみせる! 君に呪いをかけた人物に絶対呪いを返してやるからな!」


 その真剣な眼差しに私はただコクリと頷いた。


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