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1  吾輩は猫である?

 その日もいつものように仕事を終えて帰宅している途中だった。


 横断歩道の信号が青になり、数歩足を進めた所で、車のライトが私をめがけて突っ込んできた。


 突然の事で身動きも出来ず、ただライトの眩しさに目を瞑るのが精一杯だった。


(まさかこんな事で死んじゃうとは思わなかったわ)


(だけど事故にあったにしては痛みを感じないわね)


(痛みを感じる間もなく死んじゃったのかしら…)


 そう思って目を開けた私は、周りの風景が一変している事に驚きを隠せないでいた。


  きらびやかな装飾の室内に、目をパチクリとさせた。


 まるで映画や漫画で見るような豪華絢爛な家具や装飾品で溢れかえっている。


「何、ここ何処?」


 そう口に出したつもりが聞こえてきたのは「ニャー?」という猫の鳴き声だった。


(この部屋の中に猫がいるのかしら?)


 キョロキョロと辺りを見回すと、こちらを見ている猫と目があった。


  真っ白なペルシャ猫のような長毛でこちらをキョトンとしたような目で見ている。


(わっ、可愛い。だけどちょっと勝ち気そうな目をしてるわね)


  声をかけようと口を開いたら向こうの猫も同じように口を開けた。


  その途端、それが鏡に映った自分の姿であることに気が付いた。


  ドレッサーの鏡に映っている私は天蓋付きのベッドに横たわっている真っ白な猫だった。


(ウソ! どうして私が猫に?)


  その途端、昨日までの記憶が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。


  私の名前はキャサリン・レイノルズでこのエヴァンズ王国の公爵令嬢だと言う事。


 そしてエヴァンズ王国のセドリック王太子と婚約をしていた事。


 昨日の夜会で私との婚約を解消して私の妹であるキャロリンと婚約をすると告げられた事。


  失意のまま、家路についた私を両親は冷たい態度で出迎えた事。


  よくあるラノベの悪役令嬢そのまんまの状況に私は頭を抱えたくなった。


  だけど、こうして目覚めたら猫になっていたとは一体どういう事だろうか?


  目線を下に下げてもやはり私の身体は真っ白な猫でしかなかった。


「どうして…」


 そう言ったつもりなのにやはり私の口から出てくるのは「ニャー」という猫の鳴き声だけだった。


(これから、どうしよう。昨日の両親の剣幕じゃ私がキャサリンだとわかっても、どうにかしてくれるとも思えないわ)


  考え込んでいるとノックの音が聞こえた後で部屋の扉が開いた。


「キャサリンお嬢様、お目覚めですか? 旦那様と奥様がすぐにお部屋に来るようにと…」


 顔を出したのは私付きのメイドのハンナだったが、ベッドに猫である私の姿を見て大声を上げた。


「まあっ! どうして猫がお嬢様のお部屋に? 一体何処から入り込んだのかしら? すぐに出なさい!」


 ハンナは私が逃げるよりも早く私の身体をガシッと掴むと、小脇に抱えて部屋を出て歩き出した。


「あら、ハンナ。その猫はどうしたの?」


 向こうから来た他のメイドが私を見て怪訝な顔をする。


「何処からかキャサリンお嬢様の部屋に入り込んでいたの」


「まぁ、大変! 早く外に出さないと奥様に見つかったら大騒ぎよ。何しろ奥様は猫アレルギーをお持ちだもの」


 お母様が猫アレルギーなのは私も知っている。


 子供の頃から「猫を飼いたい」と言っても許可してもらえなかったもの。


  外に出されては大変、とばかりに逃げ出そうと足をバタつかせてみるけれど、ハンナの腕から逃げる事は出来なかった。


  そして間の悪い事に、お母様がちょうど部屋から顔を覗かせて猫の私を見つけてしまった。


「ちょっと! どうしてこの屋敷の中に猫がいるの!」


「お、奥様。…それがキャサリンお嬢様のお部屋にこの猫が…」


  お母様は口と鼻にハンカチを当てて猫の毛を吸い込まないようにガードしたまま眉を寄せた。


「キャサリンの部屋ですって!? あの子ったら昨日の事を反省するどころか、私に対して嫌がらせまでしてくるのね。さっさとその猫を追い出して頂戴!」


「はいっ! 今すぐに!」


 ハンナはお母様に会釈をすると、使用人用の勝手口から出たところにある裏口を開けて私をポイッと放り投げるとバタンと門を閉じた。

 

  いきなり空中に放り投げられた私はパニックになった。


 前世では呆れるくらいの運動音痴だったし、今世でもあまり活発に動けるとは言えない。


 そんな私を空中に放り投げるなんて…。


 だけど、ちゃんと猫の特性は備わっていたようで、気が付けはスタッと地面に着地していたが、そこはやはり運動音痴な私。


  微妙に着地を失敗したみたいで右の後ろ足を痛めたようだ。


「ニャッ!」


 痛みに声が出たが、ハンナは私を放り投げるとすぐに裏口を閉ざしてしまった。

 私は閉ざされた裏口の前に呆然と佇むだけだった。

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