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「すいません」
とある人間の店員が小さな声を上げる。
「なんや貴様、人間のくせに要望に応えることも出来ないんか」
獣人の客が声を荒げると同時に、周囲の客も店員に向かってブーイングし始めた。
「そうだそうだ」
「ブーーーー」
「ちゃんと温かいコーヒーを出せ」
どうやら、人間の店員が淹れたコーヒーの温度が少し緩かったらしく、そのことに対して獣人の客が不満を述べた所、周囲の野次馬も客に同調したということだろう。
実際、ブーイングだけでは飽き足らず、店員に対して中指を立てる者、店員に対して自身の私物を投げつけるものまで現れ始めた。
「もうやめてください、反省してますから」
人間の店員が謝罪の言葉を口にするものの、その言葉を聞き入れた者は誰一人としておらず、現場は謝罪する前と全く変わらなかった。
「あ、ほんとに反省しとるんか?ほんとに反省しとるんならこの場で全裸になれや!」
ぬるいコーヒーを出された事に激怒した獣人の客が声を荒立てる。周囲の状況を見ると、この場所に店員の味方は誰一人としていないと思われたが、そうではなかった。
「あ?店員が気に入らないからって好き勝手すんじゃねーぞこのやろー」
どこからかエリーヌの声が響く。獣人が声の主の方を向くと、そこには人間の女の顔があった。
その顔を見た瞬間、獣人は大きな声で「あ?人間の女のくせして、なに俺等獣人様にけちつけてんだよ」と捲し立てる。
周囲の野次馬も獣人の客に同調し、エリーヌに対してブーイングをし始めた。
はじめのうちはこれと行った問題はなかったのだが、途中からエリーヌ自身の悪口や罵詈雑言などが飛び交う。
この時点でエリーヌはかなり怒りを堪えていたが、野次馬の「身分を弁えろクソヤロー」という言葉に鋭く反応したのだった。
「あ?獣人だからって何でもありなんですか?全く、獣人様はほんとに偉いんですねー。
そんなに偉いんなら自身で沸かせや、種族に縋ってるだけの弱者が!」
その言葉を聞いた瞬間、野次馬が全員店を離れていく。野次馬は全員金を払わなかった。
その後、その場に残った店員が「ありがとうございます」とエリーヌに感謝を示したが、エリーヌは「いえいえ、大丈夫ですよ」と口にした。
その後、エリーヌはコーヒーを注文、店員と談笑しながらコーヒーを飲んだ。
人間に対して高圧的な獣人、話さえ聞いてもらえない人間、これが社会の現状である。




