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トンボの目回し

作者: 郁章

夏も終わりかけのある日、小学二年生の公平はリビングで寛いでいた。すると、洗濯物を干しに庭に出ていた母さんが戻ってきて、公平に言った。

「夏の間中、ずっとゴロゴロしてるじゃない。ちょっとは体を動かしたら?」

「しょうがないよ。毎日暑いし、どこにも遊びに連れていってもらえないんだもの」

公平が反論すると、母さんは小さなため息をついて言った。

「だったら外で遊んだらいいんじゃないの。今日は気持ちいい風が吹いてるわよ。トンボもたくさん、スイスイ飛んでいくわ」

「トンボ?」

「そう、体が赤いからあれはアキアカネね。そうだ。公ちゃん、トンボとりしてきたら?」

「そうだね。ぼく、指をくるくるまわして、トンボの目をグルグル回して捕まえてみたい」

「あら、それは高度な技よ。虫取網も捕持っていきなさいな」

「わかった!」

そんなわけで、公平は虫取網を持って家を飛び出した。

公園に着くと、さっそくトンボを見つけたので、網をひとふりしたけれど、捕まえられなかった。

トンボは少し離れたかと思うと、また近づいてきて、スイッと公平の目の前を通りすぎていく。公平は身構えて、

「えいっ!」

と、気合いをいれて網をふった。

やっぱりトンボは捕まらなかった。

今度はジャンプしながら網をふった。すると、一匹のトンボが網にひっかかった。

つかまえてお母さんに見せようかと思ったけど、触るのはちょっとこわい。

「かわいそうだし、そのまま逃がしてやろう。」

わざとそう言って網をひっくり返すと、トンボはスルッと逃げて、遠くの方へ飛んでいってしまった。

見渡すと、公園のトンボは一匹もいなくなっていた。しばらく空を眺めていたけど、トンボは現れない。

あきらめて、家に帰ろうとしたときだった。遠くの方からトンボの群れが飛んでくるのが見えた。

数えてみると、二十匹。いや、三十匹、はいるんじゃないかという大群だ。トンボ達は公平の前を一匹ずつスイスイ通り過ぎていく。

まるで遊んでくれとでも言っているようだ。

公平は夢中で虫取網を振り回して捕まえようとしたけど、どれもこれもするりと虫取網を避けて空を駆け巡っている。

公平はすっかり疲れきって、地面におしりをぺたりとつけてしまった。

「悔しいなあ」

そう思って空を仰ぐと、トンボの群れが一列になって飛んでいる。

「トンボの行進だ」

公平はぽかんと口を開けて、トンボの行進を眺めた。トンボたちは公平の回りを列になったままグルグル回り始めた。トンボの列が織り成す大きな渦をじっと見上げていた公平は、頭がぼんやりしてきた。

ーなんだかおかしいぞ。

そう思ったときには、もう公平は目を回してしまっていた。

そして、あんまりにもクラクラするので、パッタリと仰向けに倒れてしまった。

すると、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。

「あはははは。捕まえちゃおうか」

「かわいそうだから逃がしておやり」

「そうだね。ふふふふふ。」

公平は、慌てて目をぱちぱちさせて、空を見上げた。

アキアカネたちは、西の空に向かって赤い夕陽に溶けるように消えていった。公平はぼんやりとした意識のなか、遠くで自分の名を呼ぶ母さんの声を聞いたような気がした。



お読みいただき、ありがとうございます。

ちょっとだけ怖い話にしてみました。


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