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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第5話:文化祭事変
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多いな、パチーシかよ

 さすがに爆弾が一つしかないとは思えないので、再び地味で不審な作業に戻る。パチスロの通常時みたいに、おちつーいた感じの。


 廊下の隅に文化祭のパンフレットが落ちていた。まあ一応、文実でもあるわけだし、いくらでも替えがきくとは言っても、こういうのはしっかり拾っておこう。


「どうしよう、生徒会室に届けようかな」

「うーん、さすがに捨てちゃっていいんじゃないかー?」

「でも見て、めっちゃスタンプラリー進んでるよ」

「96個押すと、豪華賞品が貰えるんだっけ」

「多いな、パチーシかよ」

「うーん、届けてあげよう。それで損することは無いし」


 芽生は自分のパンフレットを取り出し、落ちていたパンフレットと、交通量調査のバイトみたいに、真剣に見比べ始めた。


「このQRコード。私のと違くない?」

「ほんとだぁー!よく気が付いたね」

「そう、これは本当に陽菜の言う通りだよ。そんな灼眼を人に向けたら、灼けて死ぬよ?」

「でも、これって違うページに繋がらないのかな」

「QRコードには誤り訂正があるから、同じところに飛ぶんじゃない?そうだよね、成」


 物は試し、実際にスマホで読み込んでみると、同じURLに飛んだ。それと、他のパンフレットも集めてみると、おおよそ半々ぐらいの割合で、2タイプのQRコードが印刷されていることがわかった。


「はい、これから言えることはーっ。まずは天才ちゃんから!」

「ここに謎がある……?いや、わからん、何にもわからん、皆目見当つかない。ついでに自分の将来も想像できなくて無理、ぼくが成人?ないない、ありえない、永遠に二十歳前夜をループするんだ……」

「えーっと、次なもち!」

「まあ、成の言うように、これが爆弾のありかを示すヒントになってる可能性はあるよね」

「そうかー?大々的にやってる謎解き企画で使うやつなんじゃない?それに一足早く勘付いてしまったってだけで」

「あの謎解き企画、さっきは屋上を見つめ直すきっかけをくれたし、可能性はあると思う」


 しかし議論は平行線をたどったまま。 “3人” の叡智を結集しても、この難題に結論を出ないまま1時間。飽きたので先に文化祭を満喫することにした。


「はっはー、またなぞをとかれてしまったぜ」

「いや、わざわざヒントを出すからでしょ。黙って盗めばいいものを。目立ちたがり?」

「はっはー、いかにも。おれはめだちたがりだ。そうでなければ、おんみつさがものをいう、せっとうなんてするわけないだろ。おれ、ねはいいやつなんだ」

「そう、親近感沸くわね。怪盗チェレクラのお望み通り、必ず捕縛して、見せしめにしてやりましょう!」

「はっはー、そろそろぬすみをはたらきたくなってきたぜ。よし、つぎはしろからぬすんでやる。なにがぬすまれるかは、そのときまでの “おたのしみ” だ」


 また謎解き企画の放送が入る。はくさい中は各クラスの広告など、色んな番組が絶えず流れている。それに血に塗れた友人のテンションの高さときたら、やっぱり祭りは最高だなぁ。


「ほい、用事終わったから戻ってきた」

「おかえりー」

「何か思いついた?」

「芽生は陽菜の手持ちを見て、そう思う?」

「頭使ったから、お腹が減ったんだよ~」

「はぁー、その台詞は私のものなんだけど」

「逆に芽生こそ、何か進捗あった?」

「あんたらとは違うからね。一つだけ試してみたいことが」


 邪魔な机とか椅子を置いておくための空き教室に入り、芽生はパンフレットを穴が開くぐらい凝視しながら、黒板にQRコードを写していった。


「二つを重ねたら何かが出てくる。鉄板じゃない?」

「さっすがなもち、天才だよ、今からでも国会の公聴会に参戦したほうがいいよ」

「それは全部解決してから……でも嫌なんだけど。何の専門家として出ればいいのよ」

「二つのQRコードで違うのは右下の一部分だけ。で、重ねると、各マスは黒黒、白白、白黒、黒白の4通りの状態、つまり2bitの情報を持ってると」

「ねぇ陽菜、謎解きの天才を連れてきてくれない?」

「それがなもちなんだよ……。あ、謎解きの天才が寄り集まってるところあるじゃん」


 私は閃いてしまった。でもそれ、期末試験の時が良かった。急いで件のQRコードを読み取る。


「この掲示板!ここで聞けば、答えがわかるかも!」

「言われてみれば、謎を解くのは私たちじゃなくていいわね」

「そもそも、この謎自体、例の怪盗のほうが仕掛けたものかもしれないからね」


 二人は掲示板に送る文面を考え始めた。


「あの、『でかした!』とか『あっぱれ!』とか『褒めて遣わす』とか、無いんですか……?」

「ええぇ……、期待するなよ、そんな台詞……」


 しょんぼりして、黒板に平均的な絵心の犬や猫、にんまりヘミングウェイをチョークで描いていると、詰碁だって発想が当たり前のように掲示板を席巻した。


「あー、黒白と白黒の区別をつけないのね」

「成なら解ける?」

「うーん、いけるっしょー」


 私も負けじとヘミングウェイを描きこんだ。チョークを横にしたり、縦にしたり、斜めにしたりして、徹底的に濃淡にこだわる。やばい、何度見返してもこれはヘミングウェイ、2023年この白山高校にヘミングウェイが蘇る。一人鼻息を荒くしていると、成のほうが普段とのギャップでより引き立つ顔をしていた。


「白が一個残った。白から盗むって言ってたし、これでいいんだよね」

「よくできてるなぁ……。ここに爆弾があるのかな」

「ねぇ、どう?私のヘミングウェイ。画伯どころか画王じゃない?」

「まずまずな犬猫も並べて、ギャップを作るな、笑わせようとするなっ」

「自分の十八番を思い出すのに時間かかったんだよー」


 二人のささやかな笑い声と、教室の外の呼び込み合戦が客観的に聞こえて、せっかくの文化祭で何やってるんだろうという、封印しておかないとこの身を滅ぼしかねない負の感情が芽生え、死にたくなった。


「で、この白い石の場所にあるんでしょうけど。どこなの?」

「普通に、学校を上から区切って、ここだーってやるんじゃない?」

「あ、この教室の前の窓に、碁盤の目が貼ってあったよ」


 私の記憶に誤りなどあるはずがなく、生徒会許可の印が律儀に押された碁盤の目が、窓に貼ってあった。


「その白い石があった場所から見える位置にあるってことだよー」

「距離によって変わるくね」

「あそこ、明らかに掘り起こされた跡があるんだけど……。あれでしょ」


 芽生は物凄い残念そうにそう言った。まあ罠の可能性もあるので、一応白い石が残った場所に目を近付けて校庭を見下ろすと、見事に掘り散らかされた地点と一致してしまった。何だか苦労が報われなくてかわいそう。

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