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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第5話:文化祭事変
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馬の耳に念仏、お坊さんのお経は退屈

 残暑が辛くても、汗を拭っている暇なんてない。他を圧倒する優勝候補のクラスに寄れば、開場数分前なのに暗幕が足りないと言われ、生徒会室に戻れば、人手が足りないと言われ、真面目にやってる人ほど報われない。でもそれでいい、それがいいんだ、だってはくさいだもの!


 まあぶっちゃけると、みんな良い子ちゃんだなーとは思う。そわそわした感じは大半の人が持ち合わせているんだけど、地元高校の文化祭は、それを前面に押し出して、時に行き過ぎたことをしていたっていうか、文化祭と言えばその印象が強かった。でも出し物は断然、こっちのほうが面白そう!手が込んでて侃々諤々の声が想起できる!


「見回り、終わりましたぁーっ!」

「どこのクラスも異常なかった?」

「ばっふぃしです……勢い余ったぁ……」

「それで……ちょっと耳貸して」

「耳?何のために?」

「いいから、いいから」


 いつも友達に怖いもの知らずと言われるけど、怖いものは怖い。でも言うこと聞かないと、もっと酷い目に逢うかもしれない。私は心して、目をぎゅっと瞑り、ゆっくり屈んだ。


「今からささやくことはぜっっっったいに、騒いだり、復唱しないでね?」

「……うん」

「実は今日の文化祭を狙って、爆弾がたくさん仕掛けられてるらしいの」


 えーっと、ダメだ、絶対今、口を開いたらダメなんだ。そう、馬の耳に念仏、落ち着け、お坊さんのお経は退屈……。


「怪盗チェレクラは知ってるよね。あの企画の準備に紛れれば、爆弾を怪しまれずに仕掛けられるってわけ。大丈夫、解除方法は簡単。爆弾の上に大きなスイッチがあるから、それを押せば解除できるよ」

「質問……してもいい?」

「いいよ。小声でね」

「どうしてそんな簡単に解除できるようになってるの?」

「あぁ、それはね。爆弾は交渉材料なの。犯人の要求を呑めば場所を教えてくれるんだけど、生徒会としてはそれを容認することができなくてね」


 颯理は私の手を優しく握った。私のほうが温かい。でもこんなに一途な瞳で頼られたら、絶対断れない。


「これはフェスさんにしか頼めないことなの。もちろん友達ぐらいとなら、協力してくれていいから」

「わかった、任せて!なんたって私は、佐渡のフェレットだもの!」

「うぅーん?二人で、何ひそひそしてたのぉ~?」

「常葉先輩には内緒ですっ」


 そういうことなら、できるだけ速く動かないと。学校の危機を救えるのは、私しかいないんだ。熱くて小さい魂が震え上がっている。私はパチンコ玉みたいに、ここから打ち出されてみた。そう弾き出された、誰かを射止めるために。


 一歩間違えれば首が折れていたんじゃないかという衝撃に、頭の中が真っ白になる。でも何かが砕け散る音がしたから、これはまずいと思う気持ちが勝って、目を開けた。


「くっ……」

「ん……って、あぁーっ!ごめん、ごめんって!息してる、息してないよね!」

「してるわ!そんなにぼくと縁を切りたいんですか、そうですかっ」

「だって、この私に突撃されて、生きてるとは思わなくて……」

「頼むから自分の二つ名を思い返してくれ。越後の虎じゃないでしょ」


 何はともあれ、ポニテと天才毛がそそり立っているので、このどこか卑屈で悲観的な五味川(ごみかわ) (なり)は健康そうで一安心。私も特に怪我はしてないし……成の後方の凄惨な光景が目に入って、私はただ悲鳴を上げるしかなかった。


「ちょっ、何の空騒ぎですかー」

「うおおおおい、ヒビ、ヒビ入ってるって、天才ちゃん、天才ちゃんが悪いんだよ!?」

「待て待て待て待て、そっちが猪突猛進してきたんだろうがーっ」

「誰がイノシシだー、ふがーっ」

「あっ、それは知ってるんだ。じゃなくて、そういう四字熟語だ馬鹿めーっ」

「ふがーっ、ふっがーっ!」


 吹き抜けの透明な柵に、蜘蛛の巣のような模様ができていた。どれもこれも、前をよく見ず歩いた成が悪い。私はいつまでもこの姿勢で、成の困り顔をゆがめようと躍起になった。


「あの、ドイツの昔の名家の名前叫び合わなくていいんで、早く爆弾探してきてもらえます?」

「爆弾……」

「そうだった!天才ちゃんにも協力してもらうよ!」


 私は立ち上がって、指さして、回れ右で出発した。成も慌てて起き上がった。


「おいおいちょっと、これどうすんの、まさかぼくだけに弁償させる気!?」

「え?弁償?いやいやー、これは元からそういう模様だったんだよー」

「弁償か……、それは偉い人に聞いてみないとわからないですね」

「ほんとに弁償させられるの……?」

「へーきだよぉー!ここにスタンフォードたくさんあるからぁ!」

「生徒会っておままごとでもしてるの?」

「修理費それで払えるわけ……蒔希を盾にすればいける……!?」

「まぁまぁ、ささっちゃんが馬鹿になっちゃったけど、蒔希に言えばぁ、揉み消してくれるっしょぉー」

「それもそうですね。フェスさん、弁償したくなかったら、きちんと使命果たしてから、命果ててくださいね」

「りょーかいです!行くぞー、天才ちゃん」

「行くって、どこに……」


 嫌な事件はさっぱり忘れて、私は前だけ未来だけを見据えて、胸を張りずんずん突き進んだ。成隊員、遅れずに付いてきたまえ!

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