粉もん
「良かった、待っててくれたのね」
「そりゃあ、待ってろって言われましたし」
「絶交したくなかったんだ」
「あったりまえでしょ。いざという時にさ、頼れる友達がいないと、やっぱり心細いから」
「そんな、強く見えますかね」
「そういうことじゃないんだよ。嘉琳は当事者として、自分も解決に動こうとしてくれるでしょ。それがいいところだと思う」
「人に話して満足ーっていうたちじゃないからかな」
「何でもいいけど、これからもよろしくね」
「うーん、ぎゅってしよ」
「えっ、抱きしめマクシミヌスになるのっ!?」
嘉琳は訝しげな面持ちで、そんな顔で、急に抱擁を求めてきた。いや、求められているのか……?対価を払えと。とりあえず、腕を広げておいたら、そのままの表情で腕をくるっと捻られた。
「いっっっっ、ゆるさん、いいや、許します。嘉琳が私にくれたものを勘案すれば、こんなの痛くも痒くもいっっっった!」
もう一回捻られた。
「時雨のほうから辛気臭い話してるじゃん。やめてよ」
「すいませんでした……」
「わかればよろしい、わかれば……?」
「わかったわかった、で、何するの。お互い運動部でもないし、がっつり中華とか行くわけでもないでしょ」
「そうだなぁ、3文字か4文字か5文字か9文字、どれが食べたい?」
「じゃあ9文字」
「えー、5文字は外れだけど、選びなおす?」
「外れって何、逆に気になるんだけど」
「外れは外れ。さあ、選びなおす?」
「確か、選びなおしたほうが正解する確率が上がるんだっけ。4文字にするかー」
「おめでとう!私たちは、たこ焼きを食べる権利を手に入れた!」
嘉琳は本望だったのか、少し嬉しそうに見えた。なら、最初からそう言えばいいだけなのに、私が回りまわって5文字を選んだらどうするつもりだったんだろうか。
「ちなみに、他は何だったの?」
「何か、無性に粉もんが食べたくなる時ってあるよね。今がその時なので、3文字がうどん、9文字がサーターアンダギー、5文字がしぐれ焼きさ」
「何それ、私を焼いても可食部少ないと思うけど。そもそも粉もんじゃないし」
「富士宮焼きそば入りのお好み焼きらしい。共食いしてほしかったから、候補に入れた」
また一つ、人生の楽しみが増えたところで、さっさとたこ焼きを1パック買った。湯気が立ち、大ぶりのかつお節がきちんと踊っている。マヨネーズもソースもたっぷりかかっていて素晴らしい。結局、そこが味の根幹、たこ自体は大食い中のデザート注文と変わらない。
「入念にふーふーするわねぇ。猫舌?」
「よく考えてごらん?一人ならまだいいけど、他人がいるのに、熱くて吐き戻したら迷惑でしょ」
「それにしてはやりすぎ……あっふ、あふい、あっあっ……」
まあ黒色矮星になるまでは、今の宇宙の年齢より時間がかかるらしいので、何の屈託もなく食べられるたこ焼きも存在しない。しかしここまで口腔内が焼け果てると、意地でこのまま飲み込みたい。嘉琳の腕でも叩いて、気を紛らわした。
「大丈夫、火傷してない?」
「ばっちりしたぜっ。もうゴビ砂漠が広がってる」
「じゃあ夜を与えよう。水とってくる」
体を張りすぎると、心配が先走って、あんまり笑ってくれなくなるんだなぁ、と一つ学びを得た。あっ、もちろんそんなつもりでやったわけじゃないよ!?




