そう言えば
「はい、これ。この間、まさかゆきが来ると予想してなかったから、返せなかった」
「あー、時雨ちゃんのことだし、死ぬまで借りていくつもりなのかと。長生きしないとなーって思ってたところだったんだよ」
そう言って、私が取り上げていたスマホやら筆記用具やらを、雪環はプレゼントのように受け取った。冷静に考えると私、やってることが小学生みたいで、やっぱり返したくなくなった。
「ところで、スマホの中とか見てないよね……?」
「んあっ!?まさかまさか、分解したら元に戻せる自信ないし、そんなわけ……」
「そういうことなわけないでしょ。でもその焦りよう……」
「……ごめんなさい」
私は罪悪感よりも尊いものに駆られて、ぼそぼそ謝罪を口にした。どうして、世の凡愚どもはスマホのパスワードを誕生日にしたがるのだろうか。それはそうと、謝ったのでこっちのターンである。そのぶすくれた顔、打ち破って見せる。
「でもっ、あーいう投稿をするのは良くないよ!現に変なDM送られてたじゃん!」
「えっ!?やっぱり、あれ、あれを見ちゃったの……?璃宙ちゃん以外には教える気なかったのに」
「あそこまで振り切れてるなら、るりでも私でも変わらないでしょ」
「まっまあ、これからは今までのツイート全部消して、機嫌がいい時の私に生まれ変わるから。乞うご期待!」
雪環は洗濯かごの中を漁り始めた。
「それより、これを嘉琳ちゃんに返してきて」
「え?自分で返せば?ほら、社会復帰の一環としてぇー」
雪環は嘉琳から借りたカーディガンを、お返しとして私に渡した。すっかり世界の端に忘れてしまったものだと思っていたが、さすがに律儀だった。しかし、私がこれくらいは許されるだろうとふんでからかってみたが、一蹴された。
「無茶するのは、誰も得しないって学んだばかりだからー」
「別に嘉琳に会うことぐらい、造作もないでしょ」
「私、決めたの。家から半径500 m外には、当面出ないって」
私は迷わずスマホを取り出し、地図で自分の家と雪環の家の距離を測った。だから何だって話だ。
「どうだった?」
「うーん、524 mになりませんかね?」
「時雨ちゃんの家まで、それくらい離れてるってこと?」
「だって何かあった時、すぐに駆けつけてほしいじゃん」
「はぁ」
「はぁ、じゃないよっ。この冷徹傲慢薄情安逸退廃悪辣酔狂敬虔聡明玲瓏純情な時雨様はそうなさったんだよ!?」
「そうだね。じゃあ私の行動範囲、とりあえずは家の周り半径524 mにするよ」
まあお馴染みの、純情8割な雪環を見て、私は内心ほっとしながら、嘉琳のカーディガンを受け取った。




