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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第3話:虹の咲く七夕
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近付く足音

 颯理主催の誕生日パーティーを蹴ってまで、嘉琳には行きたいところがあるらしい。駅で事前に言われた電車を待っていると、後ろから白いオーラを感じた。


「ゆき!? どうしてここに……」


 私は自然と雪環の両肩を握っていた。小刻みに震えつつも、雪環は親指を立てた。


「私、気付いてしまった……。嘉琳ちゃんと同い年だって」

「それが、どうした?」

「案外、恐れるものじゃないかもしれない。他人って」

「そうかな。私たちみたいな、弱い人間にだけは吠えてくる輩なんて、いっぱいいるよ。でもでも、そうだ、私がいればきっと上手に受け流せるから!ねっ、だから一人で外出るのはやめとこう……?」

「いや、今日は、時雨ちゃんのお母さんに、ここまで車で送ってもらったの」

「えっ、私は歩いてきたんだけど!?」

「何かご機嫌で、早々に家を出てったから、声かけられなかったって言ってたよ」

「いいもんいいもん、これがゆきとの線引き。私は強いので、歩いて駅まで行けますーっ」


 そうこうしていると、嘉琳を乗せた電車がやってきた。雪環がおぼつかない足取りで漂っていたので、驚きですっかり先日のできごとを踏まえた態度をとるのを忘れていた。私がどれだけ彼女を傷付けたと思っているのか。でももし、雪環も私と同じで、この記憶を脳内から消し去りたいと願っているのならば、あまり蒸し返さないほうがいいかもしれない。


「意外と大丈夫なもんだね。やっぱり学校じゃないと、肩の荷が少し下りるのかね」

「二人に挟まれていると、とても心強いな」


 わざわざJRが座席に区切りを付けてくれているのに、自然と雪環に寄り添っていた。


「でももし、ここでテロリストが現れても、どっちもあっさり死ぬだろうけどね」

「そしたら、本体に攻撃が通るようになるんでしょ。で、最初から初見殺し技で、テロリストを薙ぎ払う」

「私、手を前にやっても、何も打てないよ……」

「まずは形から入ろうか。こうやって、手の形を作って、この第二関節を頑張って押し込むと……」


 私は雪環の苦労を知らない手を動かして、戦闘慣れしているキャラクターの予備動作をレクチャーした。


「あれー、ポキポキ鳴らないんだけど」

「まあ、人によるでしょ。あと、痛がらないよう、時雨が加減しちゃってるとか」

「そもそも、元からできるよ」


 雪環は涼しい顔で、指をかき鳴らした。それに呼応して、嘉琳もやり始めた。


「あの、何で二人ともできるの……」

「できないのにレクチャーしようとしたの!?」

「だから形からって言ったの!」

「形だけの間違いだろ……」


 悔しいので二人にレクチャーしてもらった。コツを掴めば案外簡単だったが、指が太くなるという迷信を、嘉琳が吹き込んできたので、ここぞという時に使おうと思う。それこそ、テロリストと対峙した時とか。


 そう言えば、結局どこに行くのかを知らない。たまに眺めてしまう路線図の中だけの存在だと思っていた駅を、次々にスルーしていく。やがて、田園の向こうに、すっかり青くなった山々が連なるようになってきた。……このまま県境越えでもするの?青春18きっぷ旅にいざなわれたんだっけ?


「いい景色だねー。電車に乗ってるだけでも楽しいよ」

「これぞ、日本の原風景って感じだよなー」


 本当に鉄道旅を満喫しているような発言をしているだと!? まずい、次の駅で降りるしかない。


「うわーっ、どこ、どこに “次止まりますボタン” あるのーっ」

「いや、これ各駅停車だから全駅止まるよ?」

「おい嘉琳!もしかして、このまま東京まで電車旅するつもりでしょ!しかも雪環を巻き添えにして!」

「次で降りるんだけど、時雨だけ終点まで行ってもいいよ」

「じゃあ私もついていくね」

「いやいやー、雪環ちゃんは、私と一緒に来てよーっ」

「私を選ぶよね?」

「もーちろん、嘉琳ちゃんには悪いけど」


 見たか、これが……友情?なのだ!と、雪環が腕にしがみついてきたところで、そうこうしているうちに、電車は再び住宅街に入り、ようやく今日の目的地に到着した。同じ県内だからか、せっかく2時間も費やしたのに、地元とあまり差を見出せない。

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