オーバーな老婆心の幕開け
雪環はオーバードーズで少々意識を失っていたらしいが、私の読み通り、命に別状はなかったようで、翌日にはお見舞いに来ても構わないとのことだった。休日なのにこんなに早起きして、母親に車で病院まで送ってもらった。
病室の白い壁やリネン類に埋もれて、穏やかに眠る雪環がいた。私はそっと背もたれのない椅子に腰掛けて、彼女の目が覚めるのを待った。
二度くらい寝返りを打った末、雪環はようやく起きた。しっかり目はこするし、大きなあくびはするし、私がいるとは思ってないらしい。驚かせられるかな。
「おぉーはよぉーっ。よく眠れましたか」
「こんな朝早くから、ごめんね、心配かけて」
「せっかく目をこすったんだから、時計を見なさい」
私はジャーキングしてくれないことが不服なのを顔に出しながら、ベッド横のデジタル時計を指さした。こんなに早くに来たのに、もう真昼間、12時を回っている……この時計は回っていない。
「昨日は色々あったから……」
「どう、体に違和感ない?」
「あー、うん、むしろ軽くなったぐらいっ、なんてね」
「本当?看護師さんに向かっても、同じこと言える?」
「それは……、たぶん?」
こんななりだが、昨日紛れもなくオーバードーズしている。私は真相に近付こうと、事の顛末を聞き出した。
「で、どうしてあんなことしたの。ちょっとやそっとの量じゃ、あーはならないんだけど」
「えーっとね……。あんまり覚えてないんだけど……、いっぱい飲んだら効果が増すかなーって」
「増さないよっ!そんなの常識でしょ」
「あれだよ、一昨日、昨日と雨に打たれて、風邪気味だったから、風邪薬も一緒に飲んだんだった。だから、こう、それも原因かも……」
「何でも薬の力で解決しようとしないのっ!風邪なんて、いつもみたいにぐーたらしてたら治るって」
「ごめんなさい……」
雪環は露骨に目をそらした。
「とにかくっ!金輪際、こういうことは無しにしてよ!いつでも私が駆け付けられるわけじゃないんだから」
「それは……きっ気を付けるよ。お医者さんからも言われたし」
「それと……ごめんね。ゆきがつらいのをわかってて、でも何をすればいいのかわかんないって、言い訳し続けて、もう3か月も放置してた」
「えっ……、いやいや、時雨ちゃんこそ大変だったでしょ。私なんて、時雨ちゃんと比べたら、ちっぽけなことで足踏みしてるだけだよー」
「それでも、私は元気になったんだから、それをお裾分けする義務があると思う。ゆきも元気になるまで、絶対離れないって約束するっ」
「うん、ありがとう。でも私、できるだけ時雨ちゃんを困らせないよう、頑張るから」
雪環に笑顔が戻って、私は一瞬だけ安堵できた。そう言えば璃宙って、何かにつけては雪環の頭を撫でていたような気がする。お近付きの証として、やっておいたほうがいいのだろうか。手を椅子から離したところで、医師と看護師がやってきたので、その手をすごい速さで引っ込めた。




