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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第3話:虹の咲く七夕
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どうして……

 無理したって碌なことないのに……。どうして自分の感情に歯向かって、外に出てきたのだろうか。雪環の兄は、今年から一人暮らししているらしいし、家でゆっくり療養するのに、妨げとなることなんて何もないはずだ。


 思い出した。木滑家で久々に再会したとき、私はやんわりと、一歩踏み出すよう勧めていた。あんな他愛もない会話に振り回されるなんて……、そう思いたいところだったが、結構しっかり家から出ろって言ってたな。私のせいか、全部私が悪いのか。


 雪環はいつもこうだった、のだろう。とても普遍的で仮想的な人間、どうでもいいことを見極めたり、どうでもよくないことを気分で決めたりできない。さぞ、手がかかったことだろう、璃宙は。


 私たち4人は、いきなり雪山の洞穴で一堂に会し、生還するために策を凝らす中、友情が芽生えたというわけではない。以前から心通っていた雪環と璃宙と、当時スクールカースト最上位から見事に転落した私がまず仲良くなり、その後いつの間にか、この輪の中に莞日夏が放り込まれたのである。つまり、璃宙が雪環を一番理解しているというわけだ。


 元々、雪環は精神的に弱くて、莞日夏が亡くなる前から、受験のストレスでかなり病んでいた。そこに訪れる莞日夏の死と、璃宙が遠い高校に通うということを聞き、あっという間にノックアウトしてしまった。璃宙なら、このまま療養に専念するのか、少しずつでも正常な生活に戻すのか、どちらに導けばいいのかの判断ができそうだが、私にはよくわからない。


 そうか、本人に聞いてみよう。文明の発展で、新幹線2駅分の距離であろうと、地球の裏側であろうと、太陽系の端であろうと、何らかの方法でコミュニケーションを取ることができる。さーって、璃宙のLINEは……ブロックされてるんだった。


 まあ、どうするかは授業中にでも考えよう。私は威勢良く、悪びれもせずに授業中の教室に足を踏み入れた。


 昼休み、いつものように真朱帆のイギリス王室を彷彿とさせる洒落た昼食と、自分の美味しいけどどこか家庭的な昼食を比較していると、嘉琳がこの教室まではるばるやってきた。


「へーい、しっぐれっ、美味しそうなお弁当食べてるねぇ」

「何、この時間に何の用。もししょうもないことだったら、業務用の掃除機に、嘉琳の皮膚を末代まで残る跡ができるぐらい吸わせるよ」

「つまりそれって、私を末代にしようとしてる……?」


「あらあら、部活関係のお友達?」

「え?まあ関係ならそうなんじゃない」

「ややこしい話を抜きにするならね」


 真朱帆と嘉琳はやっぱり初対面か。お互い大人だから、何の滞りもなく自己紹介が行われた。嘉琳は何食わぬ顔で、近くの椅子を拝借してお弁当を食べ始めた。いや、食ってたわ、卵焼き。


「それで、時雨はいったい何で遅刻したんだい。寝坊かー?いよいよたるみ始めたかー?」

「そんなわけないでしょ。あれだよ、おばあちゃんの荷物を運ぶのを手伝ってた」

「嘘だね」

「嘘は良くないよ、時雨ちゃん」

「さっさすがに、内容にひねりがなさすぎだったね……」

「そういう問題じゃなくて、時雨が見ず知らずの、他人のために、動くなんてありえないから」

「わっ私は、そこまでじゃあ、ないとは思ってるよ。でも、ほら、柄にもないって感じ……?」


「好き勝手言ってくれるわね。はいはい、本当は犬に追っかけ回されてた、中学の友人を助けてたら、電車に乗り遅れただけですー」

「あらあら、動物に嫌われる体質なの?うーん、わからんでもないけど……」

「私じゃないが?あくまでも友人が、だからね?」

「そこを強調したらいきなり嘘っぽく聞こえるじゃん。それは時雨が悪いよ」

「悪人がちょっといいことをすると、途端に善人に見えるはずなのに」

「悪人になりきれてないからダメなんじゃない?」

「そんなこと言わないであげなよ。時雨ちゃんはとても繊細で、心優しい人なんだから」


 そう言って、真朱帆は食後の紅茶を嗜んだ。気持ち悪そうにこちらを見ながら、嘉琳も真朱帆の紅茶を飲んでいる。。


 目線を下ろすと、手元には私の分の紅茶も用意されていた。そう言えば毎日、最低2杯は飲まされてるし、得体の知れない人にも振舞うし、茶葉ってそんなに安いのかなぁ。実は美味しいと思っているこの紅茶、最低グレードの代物で、真朱帆は一人になった時、心の底から笑っているのかなぁ!まあ、それで笑って幸せを感じられるなら、騙されてあげてもいいか……。


「立花さん、この紅茶って、実はゲヘナでかき集めてきたような茶葉で、それを美味しそうに飲む私たちを見て、いい気になってるんでしょ!」


 私は立ち上がって、真朱帆を指さした。もちろん、真朱帆はきょとんとした表情に変わる。


「そんなわけないだろー。めっちゃ美味しいよ、この紅茶。どこの産地の何ですかー?」


 嘉琳よ、私の腕を下ろそうとしたところまではいいが、禁忌の質問をしたな?責任を持って聞いてあげてください。真朱帆の紅茶トークを。

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