2つのキーホルダー
一本前の電車にでも乗ってやろうかとも思ったが、これ以上朝早くに起きるのは、一族にかけられた呪いの関係から難しいので、仕方なく嘉琳と同じ電車に乗って、毎日通学している。今日は一体どんな言いがかりをつけてくるのやら。
「どう、完璧な髪形でしょ」
「いつもと変わらない……」
「だって何も特別なことしてないもん」
「何だー?穴という穴に枝豆詰めるぞ」
「食べ物を粗末にしないの」
「そうだね、もったいなかったね。お正月が終わって、賞味期限の切れた黒豆で勘弁してあげるよ」
正月からもう半年経っていることを考えたら、恐ろしくてとても鼻の穴に入れられない。
「で、その、同じキーホルダーが2個くっついてることは、ツッコんだほうがいいの?」
「何、人の愛にケチ付けるつもり?」
「何の話だよ……。説明が足りてないよ」
私はリュックを強く抱きしめ、嘉琳を睨みつけた。
「あのっ、これは莞日夏のですっ!」
「お揃いかー。そういう残滓が残っているだけ、まだ良かったね」
「うん……、というか覚えてたの?」
「何が?」
「莞日夏とか、昔のこと。泣きながら、時系列ぐちゃぐちゃにして話したから、もう忘れてるかと」
「ぐちゃぐちゃだったからこそ、考察の余地があって、逆に覚えてたんだよ。計算高い女だねぇ、時雨は」
「ふふん、そうでもなければ莞日夏を振り向かせられないからね」
「そうなの?何か、前に聞いた時に抱いた印象とだいぶ違う……。無垢でどこまでもまっすぐな子って感じだったけど……?」
「あーっ、そうだよ、そうだよ?」
自分が冗談を冗談だと見抜けなくて、どうして嘘八百を並べられようか。まったく、今日の嘉琳は鈍感だなぁ。
「ねぇ、時雨、その莞日夏って子とは、 “恋人” にまでなったんだよね……?」
「うん、そうだよ。現代っ子だからLINEでプロポーズしたけど」
「えーっと……、どんな気分だったのかなぁって、気にならなくもない。だって同性じゃないですかーっ?」
「熱に浮かされるっていうよりは、旅行前夜って感じ……。あぁ、天にも昇る気分だよ、そういう感じー」
「ダメだ、脳を恋愛に焼かれてやがる……」
失礼極まりないなぁ。人生設計もばっちりだったというのに。150年先まで二人仲良く生きていても大丈夫なように、一人で万全な計画を立てたりしていた。結局、1年も進まなくて、あまりに痛々しいのでしれっと捨てたけど。




