紅茶狂いの憂鬱
最近は雨が続き、空気が湿って、微かに雨のにおいがする。でもそればかりだと飽きてきてしまう。やはり紅茶、この麝香はいくら浴びても、飽きるどころか突き詰めたくなる。蒸している間、私は秒針を目で追いかけた。あくまでも暇つぶしである。体内時計で十分正確に3分を計れるから。
3分経ったので、カップに紅茶を注いでいく。私の横を通って、都合よく時雨が登校してくる。もう3か月近く、彼女のためにゴールデンドロップを捧げてきたのだから、狂いなく最高のタイミングで、紅茶を提供できるのだ。
時雨も紅茶を飲む仕草が板についてきた。リュックを机の横にかけ、後ろ向きに座り、カップを持ち上げて、迷いなく口に運んでいく。飲んでいる最中は、必ず目を瞑り、そして毎回、微かにうなずく。おいしいも、好みじゃないも言わなくなった。
「何か疲れてる?」
「んー、確かに、偉そうに人助けしたから、まだその残響がね……」
「人助け?」
「もちろん、おばあさんの荷物を持ったとか、そういうんじゃないよ。うーん、それはどうでもいいけど、土曜日に軽音のライブがあってさ」
「あー、行ったよー。一段と凛々しくなって、最高にかっこよかった」
「えっ、あの雨の中来てたの?」
「あの人数で気が付かないことある?」
「まあ……、緊張で目の焦点が合ってなかったかもしれない」
「何かずっと、最前列の人を呪い殺そうとしてたよね……」
MCが喋っている時とか、隙はいくらでもあっただろうに、所詮その程度でしかないってことなのか。そんなものだろう、普通の関係ならば。ここでのたうち回りたくなるほうが、どうかしている。
ツヤツヤしている時雨をよそに、私は毎朝突っ伏している別の女子のほうを見ていた。




