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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第2話:木に竹を接ぐグルーオン
29/212

普通にトーテムポールだと思ってた

「思うんだけど、ヘリンボーンとヘリボーンって似てるよな」

「アンモナイトとアンモニアも似てるよね」

「だって語源同じだし」


 嘉琳はどうして私の目の前にある、この黒くて硬いものに触れなかったのだろうか。これが新しい日常だから?それともこだわりが強くて、一度決めたことを修正できない性格だから?


「そうなの?」

「どちらもエジプト神話のアメンって神様が由来らしいよ。いいセンスだねぇ、時雨」

「あぁ……、どうも……?」

「そう言えば中国の観光地って、ランクが1A~5Aまであるらしいし、5Aの観光地でA5ランクの牛肉のすき焼きを食べたいよなぁ」

「それはさっぱり理解できないんだけど」

「まあすき焼きって味濃いし、さっぱりはしてないよね」

「だからこそ豆腐が映える……じゃなかった、もう少し身の丈に合った会話をしませんか?」

「そうだねぇ……。海外旅行は高校生身分だと、ちと厳しいか。あー、もうすぐ梅雨入りだけど……。はーあ、湿気で髪がうねるから嫌だなぁ」


 湿気で髪が乱れるか……、ひらめいた。私は興奮気味に、新しい話題を提供した。


「そう、それだよ!湿気で楽器ってダメになったりしないの!?」

「知らん。それより、雨の権化みたいな名前してる時雨は、もしかして梅雨に栄華を極めたりするの?」

「いや……時雨って冬の季語だし……。さすがに梅雨となると、いくら普段血迷ってる人でも、空みたいに気分が塞がるもんじゃない?」

「でも私、雨に濡れたアジサイとか、真夏に向けてエネルギーを溜めてる感じとか、そういうのを含めれば好きだよ」

「うーん、じゃないよ、そうじゃないよ。私ベース買ったの、マイニューギアーなのっ」

「何?暦でも作ったの?」

「作りたいと思ってたけど!なんでわかったの!じゃなくて、イヤーじゃないよ!」


 肌寒い春の終わりに辟易して、自分で暦を作ろうとしてたことを、どうして嘉琳が知っているんだ。声として漏れていたのか……?あの頃は、精神的に追い詰められていたので、どうにも記憶が曖昧である。


「えー、だって普通にトーテムポールだと思ってた。ついにそういう方面に目覚めたかーって」

「私を何だと思ってるんだ」


 私は拗ねた演技をした。


「何かを信仰することは悪いことじゃないよ。何万年も前から人類がやってきたこと」

「本当?それは嘉琳の本当の気持ち?」

「もちろん事実陳列に過ぎないよー。私の根幹は科学信奉、何ならそれ以外の概念を信じてる人を蔑んでる」

「一瞬共感したけど、よく考えたらそこまで割り切れるかなぁ。なんだかんだ神頼みしてるし、受験の時とか」

「それくらいがちょうどいいよ、ほんとに」

 色々考えてみるが、神の存在を一切仮定せずに生活するのは、意外と困難があるものだ。それを排している嘉琳とは、根本的にわかり合えない箇所がありそうである。


「でも疑似科学にハマるのはやめてよ。手が出そうになるから」

「ふーん、私も壁に頭を打ち続ければ、いつかその壁を透過できるのかな」

「いけるんじゃない」

「おい私が頭を壁に打ち付けてほしいからそう言ってるだろ」

「確率は厳密に0じゃないらしいから、やってみなよー」

「本当?」

「何?疑うなら証明して見せてもいいんだけど」


 嘉琳がノートと筆記用具を取り出した。まずいと思って、私は横の壁に、周りの人が注目するぐらいには強く、頭を突き付けた。朝から脳を震わせる鈍い痛みで、素晴らしい目覚めだ。世界が輪郭を持ち始める。せめて嘉琳は大爆笑して、周りから白い目で見られてくれ。

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