表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第2話:木に竹を接ぐグルーオン
27/212

不穏な影

 初夏の蒸し暑い土曜日、私は人目もくれず日陰を綱渡りして、糊口をしのいでいた。そうしていると、集合場所に着く頃には、舌も出したい気分になっていた。


「多々良さーん、遅いよ~」


 真っ先に蒔希が、私の接近に気が付き、よく通る声で呼びかけた。しかし、いつものヘンテコな帽子を被っていないので、横の颯理たちを見て、初めて私の知り合いだと認識できた。あれがないと、色んなところに目が行って、何か変な気が起きそうである。


「ドッグイヤーの対義語をシグレイヤーにしたいんだけど、どうかな」


 不釣り合いな色と大きさの日傘を持っている桜歌は、相変わらずの切れ味であった。


「不測の事態に備えて、多々良さんはもっと余裕を持って家を出るべきです」


 特段関わりのなかった天稲からは、正論が飛んできた。とても感情がなくて、まるで誰かに言わされているような……。ボブは訝しんで、天稲の足元を見た。


「まあ……、みんなそーこまで待ってないんで、行きましょうか」


 天稲に迫っていると、颯理は手を軽く叩き、意地の悪い言い方でみんなを動かそうとした。


 私は約束の時間通りに来たというのに、どうしてこんなに冷血な表情を、揃いも揃って浮かべているのだろうか。私は数多の苦難と挫折で磨かれた鋼の精神で、居直ることにした。


「よく考えてよ。バスとか電車とかが、時刻表の時刻より早く出発してったら、もうそれは大問題でしょ!」

「別に、みんな時雨さんのことを、責めてるわけじゃないんですよ。どうしてこんな空気になってるんですか……!」

「え?私はもう瞋恚が滔々と、泡を立てて波打ってるんだけど」

「それは嘘です。私には、阿智原さんの口輪筋が緩んでいるように見えます」


 桜歌は自分の手で口元を触った。


「ここで立ち話してても暑いですし、とりあえず場所を変えませんか?」

「そうだねー。大丈夫だよ、多々良さん、そういうレッテルが貼られるだけだから」

「たまたま電車がこの時間だっただけなのに……」


 私は蒔希に背中を叩かれながら、ようやく一行はどこかへ向けて移動し始めた。そして涼しい館内を彷徨っていると、ゲームセンターに来ていた。この騒々しさ、懐かしさを覚え、私は立ち止まっていた。それを訝しむことなく、蒔希は私を店内に押し込んだ。


「もしかして、ゲーセン初めて?」

「違いますよ?嫌となるほど入ってるんで」

「そう、なーら良かった。えっ、何やるのっ」

「あー、あれやりましょうよー。頭文字I」


 颯理はレースゲームを指さした。しかし、負けず嫌いが空回りして、そもそも勝負の土俵に立つのはやめておくことにした。土俵は女人禁制だし。


「それなら、私が受けて立とう!先輩として、いいとこ見せてやるーっ」


 蒔希はそう勇み立って、ない袖を捲ろうとした。だが、颯理はそれを凌駕する気迫で、筐体に座った。メニュー画面の操作から、もう格の違いを感じさせる。蒔希のほうは厚底の靴なのもあって、ペダル操作がもたついている。


 首をかしげようとも、シフトレバーのつまみ方をプロ棋士の駒の打ち方みたいにしようとも、ないクラッチペダルを踏む素振りを見せても、実力差というのは覆ることがなく、颯理相手に蒔希は10連敗を喫した。さすがに衝動が抑えられなくなった蒔希は、溜息なのかぼやきなのかわからない、大きな声を出して両手を挙げた。


「笹川さん、もしかして私がベーシストで、ギター教えられないの、そんなに根に持ってた?こてんぱんにしたいぐらい。ごめんね、古の炊飯器のギタリストが常葉で……」

「えっ、違います、違いますよ!?確かに、和南城先輩は教え方が上手で、時雨さんが羨ましいって、10年後笑い話にしてるかもしれませんが……」

「でもこれでわかった。レディースの総長にならない?どうやら、内部抗争で分裂した片割れが、人材不足で困ってるらしいんだよねぇ」

「いやいやいやいや、今どき時代遅れですって、そんな組織」

「時代なんか一蹴して、それくらいロックに生きたほうが、音楽も上手くいくんじゃない?」

「うんうん、私も原動力はいつもアングラだからねー」

「二人とも、友人を非行に走らせようとして、楽しまないでください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ