令和の魔法少女
駅までの帰り道、私は前方でシンデレラが悪いお姉さんに襲われて、電柱の根元で落とした荷物をかき集めているのを見つけた。車道にも本が転がってるし、私は野次馬しに駆け寄っていた。
「あー、痛い痛い……」
紫の読書少女は、歩道の端でしゃがみ込んで額をさすりながら、落とした本を順番通りに積み上げることに命を懸けている。
「別に、自力でどうにでもなるんだけど」
「そんなゆっくりやってたら、いつまでたっても終わらないんじゃ……」
「なら、車道に転がってる本を拾ってきて」
「いいよー、それくらい」
私は車道の端に転がった、古びたハードカバーの洋書を何冊か拾った。
「触るな、私の大切な物に」
「えっ」
「と、言ったらどんな顔をするかしらね」
遠い昔に感情を失っているのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい。彼女は子供っぽく私を笑いものにした。
「もう少し顔をゆがませてくれてもいいのに」
「それには、もう少し下準備というものが必要じゃないかな」
「そう、じゃあこの本の山を、後ろの籠に入れてくれる」
「うおっ、おっもい、こんなものをずっと背負ってるの?」
「案外平気だよ。小中と、使いもしない教科書とかノートとか背負って、毎日登校してたでしょ。それと同じ」
「私は肩凝るから、全部置き勉してた。学校に歯向かうのがかっこいいと思ってたし」
「今も思ってそう……」
そう言いながら、本を全部片付けた魔法少女はいそいそと立ち上がった。彼女はまた本を一冊読みながら、危なっかしく歩き始める。
「あのー、本読みながら歩くの、やめませんか……?」
「一行読むたびに前方を確認してるから、絶対ぶつからない自信がある」
「それでは、どうしてあそこで転んでたの?」
「あれはあなたにロックオンされたから。全部あなたのせい、謝りなさいよ」
「感謝の言葉ぐらい、くれてもいいじゃない……」
「手垢を大切な本たちにつけられて、それで感謝する奴がどこにいるの?」
「うーん、じゃあ私がいなかったら、どうやってその本の山を、籠に入れるつもりだったんだ?」
「籠を肩からおろして、本を載せてからまた背負えばいいだけだよ?」
「確かにー!天才か?」
「というわけで、あなたにかける言葉は何もないんだけど」
「そんなに本を読んでたら、こういう時でも使えそうな語彙の一つぐらい、見つからない?」
「Կուսություն 、කන්යාභාවය 、morwyn ……、いやないかも」
「ちなみに、日本語だとどういう意味になるのか……聞かないほうがいいね、絶対」
私は彼女の扱い方が、遺伝子レベルで組み込まれているのかもしれない。
この人付き合いが苦手そうな態度からして、見返りヤクザ戦法は厳しそうだが、それでも二回邂逅しているので、バンドに勧誘したくなってきた。最後の一人は君に決めた!
「そうそう、音楽活動に興味はないかい?」
「音楽活動?それってつまり、軽音ってこと?」
「そのとーり、バンド組みませんか」
「ギターの後ろでギロを弾く変な人になるけど、それでもいいなら」
「えー……、全然いい、むしろいい」
「いいの?」
世界の民族楽器を発掘するバンドを、颯理が了承してくれるかわからないが、これくらい変人を入れたほうが、颯理も頭を抱えそうなので、メンバーに加えることにした。私は早速、颯理に明日集まるよう連絡を入れた。いやー、いったいどんな反応するかな、給食のおひたしより楽しみだなー。




