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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第9話:トールの強迫観念
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果報は寝て待て

「おぉー、やるねー水上さん」


 私たちと遜色ない速度で滑走している時雨を見て、嘉琳は椿姫のほうを褒め称えた。一方コースの脇では、澪都がてんやわんやしている。


「馬原さん大丈夫ですかね、あれは……」

「水上さんより先に怪我するかもなぁ」

「お腹空きましたね……」

「絶体絶命な人を見て?性格悪いねぇ」

「そういう所、めんどくさいですよ」

「えっ、ごめんって」

「空腹時って、イライラしやすいらしいですね」

「颯理は颯理で、掴みにくい時あるよね……」


 感情が顔によく反映されるほうだと自負しているので、そう評されるのは心外だった。それはそうと都合よく、一面ガラス張りの景観が良さそうなレストランが、目の前にあったので入店すると、鮮やかなジュース1杯でいつまでも粘る松下と岩亀がいた。


「ここに居たんですね」

「楽しいの?どうせなら、色々グルメを食べ歩くとか、もっと満喫できると思うんだけど」

「ここなら、滑ってる人たちを眺められて、いいですよ」

「帰りは滑らないといけないから、本当はここまで登ってきたくなかったんだけど、一番下にいても速い奴に遭遇できないからさ。ここなら稀に、アマテラス粒子みたいなのが、周囲を煽りながら駆け抜けていくから、退屈しないんだよ」


 そう言って松下は、氷でかなり薄まっていそうなジュースを一口飲んだ。


「もちろん、僕は滑れるよ。なんてったって名家の出だからね。でもまあ、和光同塵という言葉もありますし」

「と、自分に何度も自慢してくる時点で、隠す気はさらさら無いよね」

「それより、例のお方はどうなりました?」

「あー今は、時雨さんと馬原さんにスキーを教えてるよ」

「まあ、ここから見えるんですけどね。でも妹さんの言うように、もっと恐れているものだと」

「そのことなんですが……」


 昨晩の王様ゲームの話を二人にもしてみた。


「それは実に興味深い……。あっ、ホワイトボードとかない?」

「まっちゃんが数式書こうとしても、せいぜい余弦定理が限界でしょ」

「余白はクライン=仁科の公式の導出で埋めておくよ」


「他人の言う事に耳を傾けてしまう腕……。つまり彼女の腕は、黒騎士みたいなものなのかもね」

「そうなんですか……?」

「だから、誰かに委ねればいいんだよ。本人は心底嫌がってるから、他の誰かに」


 まるで一件落着したかのように、松下は自己満足に酔いしれている。しばらくカレーを口に運びながら咀嚼したが、よくわからなかった。


「良かった良かった。人が救われると気分がいいー」

「何がいいんですか!?何もわからなかったんですけど!?」

「自分の気分が、最高」


 松下は適当なことを言いながら、後頭部で手を組んで、窓の外をバカンス気分で高みの見物している。


「要は、誰か責任感のある優等生と、主従関係を結べばいいんですよ」

「まとめてくれたっぽいけど、日本の都道府県全部覚えてるこの私でさえ、理解が追い付かないんだが」

「深く考えず、試してみたら?笹川さんとか、力が欲しいでしょ」

「要らないですよ!」

「でも早く解決しないと、生徒会長たちがどんどん苦しくなるよ?」

「そうそう、退学にならないよう、頑張って学校を説得してもらってるんですよ」

「へー凄いな、生徒会ってそんなこともできるのか」

「和南城先輩、こんな事にムキにならないで欲しいんですけど……」

「でも、勝敗は決した。自分は、時機をうかがえば、必ず解決すると予想してた。そして、その通りになった!」


 事後諸葛亮というやつだろうか。後からなら何とでも言える。


「まだなってないですよー」

「まあ、闘争心を煽ることで、上手く事を運んだという点は、僕たちの功績とさせてください」


 昼食を食べ終わってから、嘉琳ともう一度首を左右に傾けてみた。


「どう思います?」

「意外と、そういう事もあるかもね」

「えぇー、そんなぁ」

「あっ、共感しないとダメだった?」

「別に、嘉琳さんからの共感はあんまり望んでませんけど……」

「事実、馬原さんの言葉で動いたように見えたんだから、検証してみる価値はあると思うよ。人間は因果を証明するのは100年早くても、統計的に優位かを述べることはできるからねー」


 私は不可解で不思議な現象に対して、不可解で不思議な解答を拒んでいるのかもしれない。さっきまで同じように首をかしげていた仲だった嘉琳から、割とあっさり達観的な回答が返ってきたけど、そんな風なことに気付かされた。


 それはそうと、嘉琳と松下は、推理小説で作者に運命付けられ、仕方なく助手をやっている聞き役に対して、気持ち良さそうに自説を展開し啓蒙する探偵みたいな口ぶりを、ぜひやめてほしい。

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