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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第9話:トールの強迫観念
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ダモクレスの剣

「6ばんから12ばんなのー」

「6は澪都だよね。あれ、12って誰だ?」


 何人かの視線がこちらに向けられる。息を潜められているつもりだったのだが……。そもそも、どうしてこんな集まりに私なんかが呼ばれたのだろうか。何もわからないので、一旦壁によりかかったまま、涼しい顔をしてやり過ごそうとしてみた。


「はい、せーっかくだし、参加しよー」

「いや私なんかが、面白い話できるわけない……」

「あー、その辺は心配無用でしょ。みんな面白くないから」

「自分を卑下しすぎるのも良くないのよ?」

「おーちょっと面貸せや時雨」

「額ならいいよ!」


 私は底抜けに明るくて、前しか見えてなさそうな少女に背中を押され、ふんぞり返っている澪都の足元で跪いていた。どういう顔をすればいいのか分からない。多分、睨みつけるような感じになっていた。


「初対面だからって、血も涙もない命令を下しちゃってもいいのね?」


大体そういうのはこけおどしだろうが、澪都は有言実行してきた。


「それじゃあ、私も破壊の美学を間近で観察したい。なんかパンチして壊してみて、テレビとか、そこでスマホ弄ってる人とか」


 澪都は半笑いで時雨を指さした。でもあれは、私の意に反して起こる現象だから、道理とか憲法以前に不可能……左腕が、疼いてる……!?まずい、こんなに大勢が集まっている中でこれが暴発したら……、今度は助けてもらえないかもしれない。この期に及んで自分の心配をしていることに吐き気を催しつつ、私は右手で左腕をもぎ取るぐらいの力で握った。


「何ですか、発作ですか!?」

「ええええ芽生!やっぱりやばい人じゃん、大丈夫じゃないよ!」

「ビビりすぎだよー、天才ちゃん」

「おっ、陽菜は目撃してしまってるんじゃないのか!?」


 大同小異、ここにいる皆が、小刻みに震える左腕を目の当たりにして、畏怖をいだいている。腕に絡みついたり、誰かを盾にして隠れてみたり。そんな中、気ままな怪力はますます強くなって、周りを不安にさせていることを恥じたり悔いたり罵ったりする余裕もなくなってきた。


「とっ、とりあえず大丈夫ですかっ」

「颯理!近付かないで。時雨のクラスの人を呼べば、止めてくれるって話だったよね」

「多分、もう眠りこけてる」

「叩き起こしてこいー!黎夢がなんか鈍器の一つや二つ持ってるでしょ!」

「そんなもくてきのために、わたすわけにはいかないのー!」

「四の五の言うな!生死がかかってるんだから!」

「私を盾にしている分際で、生死を語らないでください!」


「ま、まさか……、こうなるなんて思ってなかったんだよ。冗談だったのに……!」


 澪都は口元を手で押さえて、後ずさりしながらそう嘆いた。別に彼女のせいではない。だが、何の因果も感じないのは無理がある。そんな罪の意識を誰かに与えてしまったことで、また一段と自分が嫌いになった。……あれ、力が抜けていく。人の心を壊せば、それで満足だというのか。


 私は警察に出頭するような心持ちで、恐る恐る顔を上げた。


「収まりましたか……?」

「やった勝った全部終わったんだ、今夜はレチョンにしましょう」

「ばかちばにゃん、ていちゃんがれむたちをかばって死んじゃうでしょ」


「えっと、もう平気?落ち着いたなら、そんなに張りつめなくていいよ」

「あっいや……わからない、どうなんでしょう……」


 嘉琳からの慰めにも、曖昧な言葉しか返せない。善意なんて、私にはもったいないのだから。危険な目に遭ったのに、そんな平然を装うとはどうかしてるって、本当は言いたい。


「はっきりしてくれないと、成が私から離れなくて困るんだけどー」

「べべべ別に怖くないし、危険を察知しただけだしっ」

「最悪、避ければいいじゃん」

「ぼく、陽菜みたいにすばしっこくないからっ」


「皮肉にも、一番盛り上がりましたね……」

「でもでも、はでにやらかしちゃったところを見てみたいっていう、ごーよくもうずまいてるのー」

「これは次の人、ハードル上がったなぁ。というか、声枯れた」

「おーい馬原さん、そんなに気にすることないって。誰も死ななかったんだから」

「本当……?私、悪くない……?」

「いや、悪いのは馬原さんだけど、まっ、我々は許してあげるからね」


 嘉琳は私を一瞬見てから、窓際に追い詰められている澪都を慰めた。そんな風に忖度しなくても、とか意見する権利もない。


「尻尾を持ってもらったお礼として、許されてあげる」

「水上さんも、いい刺激になったぜ。ありがとー」


 私は目を伏せ気味にしつつ、話をややこしくしない為に、半分頷くことしかできなかった。


「何というか、嘉琳さんって露骨に優しさを振りまくね……。長所だと思うよ?私も見習いたい」

「後期Z世代には詳しくないんだけど、それが今時の嫌味?」

「捻くれないでよ。でも、勘違いされても知らないわよー」


 今の今まで直接人を傷付けたことはない。けれど、明日もそうだとは限らない。それでも、こんなにいい人たちだけには、絶対に牙を剥いてほしくない。彼女たちのためなら、どんな苦痛が伴おうとも、切り落とす覚悟が芽生えていたかもしれない。

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