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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第9話:トールの強迫観念
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立憲君主制王様ゲーム

「このままだとデカメロンになるけど、まだ続けるつもり?」


 嘉琳も同じ気持ちをいだいているらしい。割と前向きにツッコんでいたのに。


「うーん、もう続かないんじゃないんですか?」

「ここはいっそのこと、みんなのれんあいへんれきを……」

「大半の人が話すことなくて、また捏造し始めるでしょ。あっ、私は莞日夏がいるから……」

「あーあー、面倒なことになりそうだから、別のことしようかー」

「ふぅー、命拾いした……」


 私たちに見境がなかったら、陽菜は激しく問いただされていたことだろう。少なくともこのコミュニティでは、正直は悪である。


「じゃあ、おうさまゲームするのー」

「それなら、私は法になるので従いなさい」

「誰が従うもんですか!べろべろー!」

「まあ確かに、絶対王政は考え物だな……」

「いや小川、ゲームだから、そんなに深みにはまらなくていいから」

「立憲君主制の王様ゲームとか、聞いたことないんだけど」

「なもちー、 “りっけんくんしゅせい” ってなーに?」


 せっかく人が集まっているのだから、少しぐらい盛り上がることをやろう。例に漏れず黎夢が、神性の象徴12面ダイスを隠し持っていたので、それで王様を決めることになった。


「王様が命令する相手もダイスで決めれば、立憲君主制になるんじゃない?」

「それはいいですね。端っこで息を潜めてる人も、強制的に参加させられますから」


 颯理の何気ある一言で、誰が呼んだか、部屋の隅に突っ立っている例の怪力少女がビクッとなったのを、私が見逃すわけがない。それはそうと、全身灰色のスウェットに、フードを被っているので、明らかに真犯人である。あまりの無頓着さに、まあ多様性を重んじることにしよう。


「うへぇ、そもそも、ダイス振る人の思う壺になっちゃうよね?平等性という観点は……」

「壺はどこにあるんだよ」

「まあまあ、私が王様になっても、天才ちゃんには手加減したるからー」

「誰が相手でも秋霜烈日を貫きます!」


 天稲だけは王にならないよう、星に願いを込めて、さあ第一投、賽は投げられた。


「3ばんが王さまで9ばんにめいれいしてくださいー」

「番号で呼ぶの、ディストピアっぽいなぁ……」

「嘉琳、呼ばれてもないのに興奮してるの?」

「してないよ!小川まで変なこと言わないで」


「うわ、つまらなそう」

「よく言ってくれましたね阿智原さん、さあ覚悟してください!」

「手加減してね、次期会長?」

「ふっふーん、遅刻した体で、原稿用紙1枚分の反省文を書いてください!」


 颯理は芽生に、気持ち良さそうに声を張り上げて命令した。黎夢がさっと昔懐かしの象徴原稿用紙を取り出し、それを受け取った芽生は、机にそれを置いて、立ったまま黙々と反省文を書いていた。


「地味だなぁ」

「地味だね……」


 我々は期待を裏切れない颯理に敬意を示すべく、あくせくしている芽生の腰を眺めなが呟いた。


「わざわざ私を気遣って、予言を当てさせなくてもいいんだけど?」

「Humor Anymore Here we go」

「人の反省文とか死ぬほど興味なーい」


 私の韻を聞かなかったことにするのだけはやめてほしい。


「いや私は書き上げて見せる。ご主人様のために!」

「めのうー、行の一番上に句読点を置いたらダメだよ」

「うっさいなぁっ。王直属の臣下のほうが、平民より偉いんだよ!」

「あっ、行列とみなすなら列だけどね」

「そのネタ、もう面白くないです」

「西洋至上主義者の戯言は、弾圧されるべき」

「桜歌……そこまで言わないでよ……」

「えぇ、おーい、なもちさん。颯理が面白い話をご所望だってさ」

「はぁ?ニッコリ―ニは悲劇作家。はい、面白いでしょ」


 原稿用紙と聞くと身構えてしまうが、所詮は400字なので、あっという間に埋まった。颯理が献上された反省文を存分に味わっている。


「あの、どうしたんですか、何か辛いことでもあったんですか?」

「反省文を書けと言われたので、その通りにしたまでだけど?」


 気になるので椿姫も含め、皆で覗き込みに行ってみた。ざっと頭から流し読んでいると、やけに理路整然としているなぁと思ったその先に、架空ではないきちんとした自己批判が待ち受けていることがわかった。


「反省文として、文句の付けようがないでしょ?」

「よくもまあ、そんな厭世的になれるね。惚れ惚れするわー」

「きっと、書きなれてるんだよー。いいなぁ、ちこくしほうだいー」

「芽生って、その、こういう所あるから、得意なのかもしれない」

「こんな才能、あっても嬉しくないけどねー」


 さて第二投、今度は小川が王で、私が面背腹背の臣下となった。


「ほら、命令できるもんならやってみな」


 私は王に向かって、上向きの指を前後に動かし、対戦を申し込んだ。


「じゃあ、足の裏をマッサージして。いやー、今日は歩いたからねぇ」

「嘘だよ!初心者用のコース一回滑って、あとずっと休憩してたじゃん」

「自分だけ、頂上から逃げたしね。まあそういうんなら、明日のために、強めにマッサージしておきますねー」

「うおお、痛い痛い!」


 左足を謙遜の範囲で思いっきり押すと、ずっとその椅子にもたれかかっている小川を、僅かながらもようやく浮かせられた。とは言っても、私にそんな、人を痛めつけるような力があるとは思えないし、足にツボって実在するのかもしれない。


「これが下剋上……!参考になります!」

「下剋上ができる王様ゲームって何よ」

「まあ、憲法で定められてる限り、その二人には主従関係が生じます」


「次ー?えーっと……、喉が渇いたな。そうだ、夜も長いし、エナドリを飲んでみたい。下の自販機で買ってきて」


 小川は周りからの視線に耐えかねて、泣く泣く次の指令を出した。うーわ、かったるいわぁ、部屋の冷蔵庫に入ってる、未開封のお茶でも届けよう。カフェインたっぷりだし、同じでしょ。私は人が変わったかのように、前だけ向いて部屋を出て行った。なんでそんなに訝しんでる目線を照射するの!


「王女様、量が多いから、こっちのほうがお得です」

「あぁ……100点!実は私、心臓が弱いから、エナドリは飲む気になれないんだ」

「そこは褒めて遣わすでしょ!」

「そうは言ってもなぁ……。陽菜、わかる?このつぶらな瞳。こんなに麗しい瞳孔を、汚すわけにはいかないよ」


 小川の前に跪いて、いつ寝首を掻いてやろうかと、彼女を見上げて機会をうかがっていたら、当たり前のようにお世辞を言われた。


「いまいち盛り上がりませんねぇ。もっと、派手な命令出しちゃってよ」

「難しいよ。本気を出すと、犯罪を教唆してしまう」

「これだから小川はーっ。弓納持さん、ここは一つ、王様ゲームらしいことを!」

「いいのー?それなら、誰かとちゅーでもさせちゃいなよ……」

「メルティーキッスで我慢してろ」

「へめて、ほーほうほってくれても……」


 私は芽生の口めがけて、そこに余っていたメルティーキッスを投げた。鼻に当たったら、涙が湧いてきそうだったし、間に合って良かった。しかし、こう人から白い目で見られると、背中がむずむずしてこないこともない。


「やるね!うちのなもちを倒すとは……」

「さっすが時雨、容赦ない」

「相変わらず、手を出すのが早いね。私もすれ違いざまに、なんどスカートを切られたことか」

「澪都、あんまり適当なことを言うようなら、あんたにも投げるよ?」

「スモアでお願いね」


 このままだと無限にお菓子をつまんでしまう。無難に美味しいお菓子の名前を叫ばないでほしい。さっ、第三投だ。


「2ばんから2ばんなのー」

「恐れてた事態が実現したね。というか、なんでそのままやったの!?」

「所詮1/12だからじゃないですか?」

「3回目までに1/12を引く確率は₃C₁(1/12)(11/12)^2=121/576、だいたい20%ぐらいだけどね」

「まあ、嘉琳だからいいけど」

「良くないよ!大して恥をかかなかったからって、酷いよ時雨ー!」


 と、私を揺さぶる割に、結局きちんと義務を全うする嘉琳であった。


「我らの、高潔で偉大なる正当な王、神宮寺嘉琳に、妾は忠誠を誓います」

「勇者ルイーザ・フォン・エーレンフェストよ、貴公の働きに期待しているぞ」


「どうせなら王の名前も創作したらいいのに。セフィロスとかガノンドロフとか」

「弥助みたいなイメージなんでしょ」


「でー、何しようかなそうだな……。私が短気だと思われそうなエピソード話しまーす。押しボタン式の横断歩道で、押してないのに突っ立ってる奴に向かって、聞こえるように舌打ちしたことある」

「それは殴っても許される」

「共感できること言わないでください」


 とっさに共感してしまったが、やはりこの王女、自己保身に走っている。ここはそそのかしてゲームを盛り上げてあげよう。


「せっかくだしー、初恋のしょうもないエピソードでも話してっ」

「え?普通にお断りだけど」

「おいルイーザちゃんじゃなくて、王女様を呼んで来い」

「王女様も嫌がっております」

「なっさけないわね~。プロ意識が足りない」

「わかったよ。後にプレッシャーをかけるためにも、私の甘酸っぱい過去の話をしてあげよう」

「わーい、おばあちゃん聞かせて聞かせてー」

「誰がおばあちゃんだ、あの手この手で陥れるぞ」

「こわっ、ごめん、つい懐かしくて」


 陽菜は鷹に睨まれた雛の如く、嘉琳に恫喝され、委縮して正座し始めた。だがしかし、いい働きをしたものだ。嘉琳の意外な側面を窺い知ることができた。

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