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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第9話:トールの強迫観念
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しゃもじ連合通暁メイボール

「はぁー、温泉気持ち良かったぁー」

「陽菜はサウナまで入ってたね。羨ましい」

「そんなに時間なかった?」

「心臓に負担がかかるから……。やりたいことリストには含まれてるけど」


「はい皆さん、傾注!」


 一応、部屋の移動は慎むべき行為なので、あまり大声を出さないでほしいが、とりあえず窓際に仁王立ちしている颯理に注目しておこう。浮かれてるなー。


「これより、しゃもじ連合通暁メイボールを開催します!」


「いや私、しゃもじ連合じゃないんだけど」

「小川!細かいことは気にしないの!」

「そもそも5月ですらない件について」

「3か月もすれば5月です!」


 成の胡乱な目つきも、颯理は華麗にかわした。


「陽菜に呼ばれて来たけど、こんなに人を集めて何するの?」

「さあ?私も知らなーい」

「こんな人口密度高いところに放り込んでおいて、そんな無責任な……」


 成の言う通り、本来は2人で泊まる部屋に12人も集めたら、いくら私が軽いとは言っても、重量オーバーで床が抜ける。実際、成とか床に直接正座してるし。まあいいや、人のベッドに大胆に寝っ転がるのが一番気持ちいい。


「このベッド、実はネズミ捕りシートだから。早くどかないと、一生そのままよ」

「ネズミになれば、変な雑菌を恐れなくて済むじゃーん。寿命が短いのが玉に瑕だけど」

「人間様に殺鼠剤で苦しめられるけど、それでも?

「殺鼠剤で苦しむのは人間だって同じことでしょ」

「あの、私も座ってるんで、あんまり暴れないでもらえます?」


 澪都が覚えたての寝返りを見せつけるように、ごろごろ転がりまくるので、嘉琳が編むように積まれたかりんとうを持って、端に追い詰められている。もはや、足の力で座っているように見せかけているレベルである。かわいそうに。


「夜更かししてお菓子を食べまくったら、さすがに太りそうだな……」

「それなら、みんなで筋トレするのー!」

「馬鹿は筋肉に宿るって言うし、神判にぴったり。ほらやりなよ、好きなだけ」

「アイドルはたいりょくしょうぶなのー!」

「おー!筋トレなら私もやるー!」

「うへぇ、なんて地獄絵図……」


 筋トレというより、陽菜たちは体の柔らかさを競い始めた。私も見劣りしないぐらいには柔軟できるが、文明人としてのプライドがあるので遠慮しておこう。


「なんでここまで来て、筋トレなんですか!」

「私もやりたくないけど……。頭数だけ集めてもしょうがないねぇ。というか、こんなに人がいて、誰もボードゲーム持ってきてないの?」

「ここにあるトランプ、スイス製だから36枚しかないの。一人3枚、みすぼらしいね」

「黎夢なら何かこしらえてるんじゃないの?」

「ベイブレードしかない……。これだと、おーにんずうで遊べないのー」


 私の読みが外れた、だと……!って今、どこからそのベイブレードを取り出した?世界の1フレームより短い時間で、手のひらから出現しなかった?こいつ、手品まで使えるのか。甘いだけじゃない……。なっ、話題が変わったのに合わせて、ベイブレードが消失しただと!?


「やっぱりここは、恋バナと行こうじゃないの。夜更かしして乙女がやることと言ったら、それしかない」

「何それ、恋バナナの略?」

「チョコバナナのことをチョコバナって省略する人じゃん」


 嘉琳よ、それは緑のぐにょぐにょに引っ張られすぎだ。


「貴様は徒花ですけどね!」

「お前の親の仇バーナナっ、の略じゃん。……あれ、ぼく何言ってるんだろう」


「まあ、らしくはありますし、隗より始めてください」

「あらあら、みんな青春してないんですわね~」

「面白くなかったら減点するぞ?」


 颯理に場を整えてもらった芽生は、咳払いをしてから、なんか琵琶法師みたいなノリで、前提条件から長々と語り始めた。一番、気が短いのは澪都だった。


「尺押してるから、結論だけ話して」

「3年の愛子先輩が、3組の浅井って子に人生めちゃくちゃにされてるって話」

「誰だよ浅井」


 成が鋭い指摘を芽生の隣で飛ばした。


「浅井長政のことでしょ」

「浅井翠葉のことよ。あれ?みんな知らないの?」

「時雨、3組でしょ?」

「んあっ!?知らな……いや知ってるし、よく話すけど、だからって心でも膝でももんどりでも打てばいいの?」

「バスケ部の中では有名だけど、世界は広いなぁ」

「そういえば、その子からプロクルステスのベッドとイクシオンのしゃりん、かえしてもらってないなぁ」

「めちゃくちゃって、拷問という意味だったのか……」


 そう小川が真理を呟いた。


「年頃の女の子が揃ったのに、あんまり盛り上がりませんね……」

「なんか、言いたそうにしてる人もいまーす」

「あの、馬原さん?」


 寝っ転がっている澪都が、嘉琳の腕を頑張って押し上げているので、私も加担してあげた。


「そういうの、縁なさそうだもんねー」

「言行不一致しないで」

「お、阿智原さん早かった」

「別に早くないし、大喜利大会にするつもりかー?」


 今度は誰に強制されることもなく、クラスのガキ大将のように、桜歌は手をまっすぐ上に伸ばした。颯理がすかさず指名するも、小川の物言いが入る。


「どうせネタに走るだろうからなぁ。いいのかそれで、なもちさんよー」

「小川うるさい」


「最近、舞踏会で格下だからって見下してくる、感じ悪い男と出会ってね。そいつ、聞くところによれば人の遺産は奪うし、姉の恋路を引き裂こうとするし、最低な奴だなーって思ってたんだけど、意外と紳士的な一面もあるし、妹のポカも何とかしてくれるし、実はいい人なのかも……」

「おぉー、すごく叙情的ー!羨ましいー」


 桜歌が何かの間違いで、このような恋に身を焦がしている可能性はないが、何の話だかさっぱりなので、沈黙を貫いていると、これまたなぜだか陽菜が信じ込んでいた。


「ただのPride and Prejudiceの要約ですよね……」

「フェスはなんで騙されてるんだ……?今時、舞踏会とか参加しないでしょ」

「えぇ!?なんでみんな頷いてるの!?」

「何の話かは知らなくても、嘘だとは見抜いてくれ……。天然すぎて痛々しい」

「天才ちゃん!ひどいよーっ、そんなに言わないでよぉ~」


 陽菜は成をひたすら揺さぶった。心底嫌そうな顔をしている。


「やっぱり、盛り上がりに欠けますね……。みんな青春してください!」

「じゃあ颯理はなんかあるの?」

「無いけど……。あっ、馬原さんどうぞー」


 天井だか嘉琳だかを仰向けになって見上げながら、澪都は両手を高く掲げていた。


「最近気になる人ができたのよー。夫を亡くした悲しみを慰めてくれるし、何より顔がかっこいいんだけど、問題は侍従なのよね、その人。結婚したいけど、やっぱり王家たる私とは身分の差が……」

「テューダー朝でも創始するつもり?」

「この気持ちを抑えられない。どうしたらいい?」

「そのまま話を進めないで?」

「でもまあ、叶わぬ禁断の恋のほうが、場が盛り上がるから……」

「一応、叶うけど?」


 澪都は嘉琳のツッコミも突っ切って、小川のフォローも台無しにした。いやあの、スキー教室の夜にする話じゃない。誰か!この変な流れを断ち切って!しまった、生きている人に恋しておけば良かった。

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