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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第9話:トールの強迫観念
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広漠とした捜査線

「何すか、この負の獺祭は……」


 何者かが破壊した、後々付喪神になって呪い殺してきそうな備品の数々が、小会議室に並んでいる。しかし、警察ではないので、押収物ほど綺麗には整列されていない。まあ、引き裂かれた野球のグローブ、トルティーヤみたくひん曲がったシンバル、座面を屠られた椅子に、拳ぐらいの穴が開いたホワイトボードと、とにかく酸鼻な有様なので、どこの並べ師も頭を抱えることだろう。


「バスケットボールの裏側とか、初めて見たなぁ」

「私、犯人知ってるわよ。ずばりあなた、嘉琳よ」

「えぇ……。そんな力があるように見える?」

「いや、バスケットボールからDNAが検出された。よってあなたが犯人」


 確かに澪都の言う通り、証拠品を無警戒に持ち上げるのは良くなかった。焼きそばパンを反対の手で持ってるし、お行儀の観点からも。


「というか馬原さん、今日は休頭日じゃなかったの?」

「何やら面白そうなことやってるから。これは間違いなく、一発退学だろうなぁっ」


 澪都はかつてないほど昂然としている。きっと、来年のクラス発表で1人減っていたら、嬉々として報告しに来るだろう。姉との再会以上に、心を弾ませて。


「でも現場に落ちていたハンカチから、犯人が浮かび上がってきましたよ~」

「おー、笹川さんたちも調べてたのか」

「生徒会も動かないといけない事案でしたから」


 颯理は誇らしげな表情で口元を拭い、弁当箱を片付けてどこかに向かおうとした。


「私も付いてくよー」

「いや、今から犯人の元に、事情聴取しに行くだけですよ?」

「それは心躍る用件だね。お供させてよ」

「あー、そのことなんだが……」


 こちらからは背面なので見えないが、多分学校の金で買ったPCでエロゲに勤しんでいる松下が、浮かれている私たちを呼び止めた。


「犯人逮捕はおすすめしないというか、お願いだから辞めてほしい……」

「おやおやまっちゃん、手柄を取られそうになってビビってるんです?」

「いや、冷静に考えてみてよ。金庫をあんな風にしてしまう人だよ?癇癪を起して、そのトールハンマーを差し向けてきたらどうするのさ」

「それだったら、この熊よけスプレーを携行します」

「うーーーーん、それでも、それでも心許ない」


 松下は大変溜めはしたが、やっぱり武勲を分捕られたくないらしい。どういう意図があるにしても、そこまで警告されると恐怖が勝ってしまう。颯理と顔を合わせて、火の中に自ら飛び込むのは辞めようと、心を通わせた。


「でも颯理は誰がやったのか、あたりはついてるんだよね」

「はい、特徴的なハンカチだったので、目撃情報がちらほらありました。名前は水芭蕉の水に、天上夢幻の上に、雪椿の椿に、稲田姫の姫で水上(みずかみ) 椿姫(つばき)、1年3組のいたって普通の生徒です」


 颯理は既視感のある、写真付きのレポートにまとめていた。彼女の評価通り、写真や内容を流し見する限りでは、特に不審な点はない。


「二つ名とか無いの?」

「逆に聞きますけど、普通の生徒にあると思いますか?」

「私は、『立てばモノポール、座ればド・ジッター宇宙、歩く姿はファインマンダイアグラム』だけど」

「柳都最速のライディングスター……。じゃなくて、今まで特に問題を起こしたこともないし、交友関係も普通としか言いようがない……立花さんはちょっとアレかな」


 そう聞くと、得体の知れない椿姫という人間はともかく、真朱帆のほうに疑惑の目を向けたくなった。現実でも大人しくしていられなくなったのだろうか。最近世界が殺伐としているという言説は、案外正確なのかもしれない。


「何にせよ、この学校で触れた物全てを変形させる、とんでもない化け物が跋扈してるってことだよね」

「熊よりは、話が通じることを祈るしかないな」

「このボロボロになった備品たちと目を合わせると、なんか怖くなってきました……」

「私の安眠は妨害されないし、どうでもいいわー」


 澪都は私の耳元でそううそぶいた。その割に、後ろから体重を載せてきている。まあ、あんな張子の虎では安眠できないだろうけど。


「ねぇ皆さんどうします、部活とか辞めて、今日は早く帰ります?」

「そういう問題ではないんじゃないかな……」

「でも岩亀、先生に報告するぐらいはしようよ」

「鉄砲玉ってこと?でもまあ、探偵にとって、警察は敵だから仕方ない」


 とは言え、より強大な力を投入しないと、どんどん被害が拡大していく。時雨とか、噂のままに吸い寄せられて、見るも無惨な姿で発見されたら……私は事態の深刻さに、改めて固唾を呑んだ。

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