レユニオンは夜明けか日暮れか
遠足の熱が冷めない。後から思い出を反芻してみると、あの馬肉、とんでもなく旨かった。あっ、馬は反芻動物じゃないね……。ということはどうでもよくて、まあそれ相応の金が吹っ飛んでいったが、やはり金でしか満足感は買えない。
そんなわけでいつもより多めに、上下方向に振動させて歩いている。大丈夫かなこの学校、免振機構を設えてるかなぁ。私が分身出来たら大変だよ?
それはさておき、颯理は毎日のように部活に顔を出す真面目ちゃんだし、時雨はゲームしたさで真っ先に帰宅するし、自分の部活のない時は、一人寂しく帰路に就くしかない。
「おーっ!?じかりんじゃないかー!そんなに変わってないねぇー」
「ん、うわっ、磯貝……」
「そんな嫌厭しなくても……ねぇ?」
「わざとらしい演技をするからだよ。今、ちょうど踏みしめている場所で、私に気付いたわけじゃないって、知ってるんだからね」
彼は磯貝 隼人、小学生ぐらいの時に仲良かった気がする。しかし、途中で転校していって疎遠になった。でもそれが嘘のように、白高の入学式の日から、三日おきぐらいの感覚で見かけている。
「気付いてるなら、話しかけてくれても良かったのに」
「別に用ないし。あいにく友達には困ってないので」
「本当?一歩踏み出せなかっただけじゃなくて?」
「うーん、言われてみれば。だって面影ないもん。もし違ったら、たぶん政治家にならざるを得なくなるし」
「まあ、俺にも色々あったから」
眼鏡をかけてないし、身長は竹のように伸びてるし、もやしのような体形の面影もないし、声も聞き馴染みがないし、過去に仲が良かった小学生の頃の磯貝と、現在の磯貝を結びつけるものは何一つとしてない。
「意外と世界は狭いんだねぇ」
「そもそも磯貝はどうして白高に来たんだ」
「えー、それはだって受かっちゃったから?せっかく受かった第一志望なんだから、蹴るのはもったいないし」
「そういうことじゃなくて……」
「強いて言うなら、中学生になってから落ちぶれなかったから?逆に、じかりんは特別な事情があるの?」
「右に同じ。だけど、 “じかりん” って呼び方やめてくれない」
「へー、何か知らない間にトラウマ植え付けられた?」
「そう呼んでくる人、あんまりいないから慣れない」
「じゃあ神宮寺さんと呼ぼうか?」
「うわーっ、それはそれで堅苦しいし、目も当てられない」
「そう、結局じかりん呼びが、俺たちの距離にぴったりだと思うんだよ」
上手くのせられた気がするが、久しぶりの再会に、お互いの中学校生活の話が弾んだ。乗る列車の方向が違うので、一駅でお別れとなったが、まあだいぶ知らない人になっていて、今後話すことはないだろうと確信していた。




