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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第7話:薄明逃避行
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令和最新版薄明逃避行

 まだ日の昇る前、薄明の澄んだ空は、手を伸ばして取り残された星々を集めたくなる……ことはなく、そろそろ朝夕の冷え込みが無視できなくなってきて、ポケットに手でも突っ込みたくなった。


 昨夜は浜名湖近くにある岩亀グループの旅館にタダで泊めてもらい、日々の疲れを癒すことができた。そして紳士が運転するセンチュリーに興奮しつつ、私と岩亀の朝強い組は、早朝から澪都を迎えに行くことにした。いや落ち着かない。隅々まで清潔に保たれていて、少しでも私が乗った痕跡を残せば、誰かが必死に磨くのだろうと思うと、足が居場所に困っている。


「こんな朝っぱらからすいませんねぇ。急遽、ヘリを新潟に戻す必要があったもので」

「いえいえ、タダで新潟まで連れて行ってくれるなんて、ありがたい限りですよ」


 澪都も緊張しているのか、まぶたさえ一糸も動かさず、湊都の膝の上で熟睡していた。しかし湊都も付いてくるとは。やはり、お姉ちゃんに重要な頼み事があったのだろう。背中を押しておいて良かったと、少しばかり安堵した。


「私たちが新幹線に飛び乗った時も、こんな感じだったな~。薄明に照らされる、掴みどころのない青が一番好き」

「でも、電磁波の入射に伴い、微小粒子内で誘電分極が起こって、その双極子放射によってλ4乗に反比例する散乱強度が得られる、なんて聞いたら、ロマンの欠片もないですよねー」

「あー、私の昔話は興味ないよね。ごめんごめん」

「あっ、違いますっ、つい言いたくなっただけです、義務感で」

「嘉琳さーん、会話のコツは共感ですよー」


 コミュニケーションが下手なのかもしれないという自覚の子葉が生えてきたが、そう正面から他人に指摘されると腹も立つ。


「なんだ、このミス研の、金に物を言わせているだけで、別に知能が特段優れていない方」

「馬鹿にしないでください。岩亀家の当主たるもの、コミュニケーションについて他人に容喙できるほどの能力はありますよ」

「いやー、澪都も面白い友達を作ったなぁ」


 湊都は白くなっていく空を見上げながら、ごく自然にこぼした。これにはとりあえず、湊都が窓の外に夢中な間に、ひたすら頷くしかない。


「もしかして嘉琳さん、返答に詰まってます?」

「えぇ、とても」


 どうして私はここまで踏み込んでしまったんだ。全部この岩亀家の当主様とパナソニックにでも丸投げしておけば良かった。私は即答していた。


「友人ということにしておきましょう。そうしたらうちのグループの宿に、月1ぐらいの頻度で泊めてあげますよ」

「うおー、賄賂か?」

「その言葉、次に言ったら勇者パーティー追放ですからね。ところで、馬原姉(あね)さんはどのような用で実家に?」

「澪都も進路に悩むようになったみたいでね。医者にならない、文転するって、親に伝えてほしいみたい。嬉しいような、これでいいのか不安でもあるんだけど……」


 湊都は家出するほどの行動力の持ち主であるから、両親を説得するのに最適な人選だと考えていたのか。確かに、補い合っていくのが姉妹の正しい姿なのかもしれないが、それは新しい逃避行の始まりのようにも思える。何だか私も感傷的な気持ちになってきた。


 それはそうと、チヌークに乗ろうと、お姉ちゃんの前であろうと、今日は睡眠の日なので、澪都は全く目を覚ます気配がない。どうやら、この48時間周期の生活リズムは、湊都が家出した後にできたものらしく、彼女も大変困惑している。そして私の膝の上でも、颯理が憎たらしい安らかな表情で眠っている。


「ふん、俎上の魚ね。私が包丁を持っていたらどうするのやら」

「ひっ、なっなんてこと言うんですか!?時雨さんみたいなこと言わないでください!」

「なんでわかった!?」

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