学校で一番人気の子
この学校は比較的サポート体制がしっかりしているらしい。それがいいことかは判断しないでおくとして、放課後に教室で担任の面談を受けた。
「どうです、この学校、この街は」
「そうですね……。忙しくて、あまり見れてないですが、いい場所だとは思います」
「そうですか。友達はできましたか?」
「それは……ぼちぼちですかね……」
「私を含めてくれて、全然いいんだぜーっ」
教室の扉が勢い良く開いたと思ったら、保月が堂々としていた。担任はすかさず冷静に閉めるよう言った。
「いつまで面談してるんですかー。この教室、使いたいんですけどー」
「もうすぐ終わるから。外で待ってなさい」
「あの、大丈夫です。足りない書類は明日必ず持ってきますので」
私は席を立ち、これで面談を終わらせてもらった。すれ違いざまに保月と目が合ったので、教室を何に使うのか聞いてみた。
「お、興味ある?しょうがないなぁ。聞き耳立てすぎて、穴開けないように気を付けてよ」
これと言って面白いコンテンツが執り行われるわけでもなく、ただここで告白する人がいただけだった。
「どう?」
「扉をロックするまでやらなくてもいいんじゃないかなって、思っちゃった」
「だって二人だけの空間が欲しいって言われたからー。でも上手くいったから、何でもいいんだよ~」
保月はこれでもかというぐらい感謝されていた。しかし場慣れているのか、照れることなく平然と二人の背中を見送った。
「じゃあ私も、習い事があるので」
「習い事?」
「今日は華道だね。お花を生けるやつ。楽しいよ?らみーもやってみる?」
保月は満面の笑顔で冗談めかしく深淵にいざなおうとした。
「早く家に帰って勉強しろってうるさいから遠慮しとく……。ほーずきは、華道以外にも習い事してるの?」
「うん、私も親がうるさいのでね……。ほら、岩鶴家って名家らしいじゃん。どこに出しても恥ずかしくない子にしようと、内輪ネタの教育に必死なんだよー」
「あんまりそういう風には見えないけど……」
「えっ、それってどういうことっ!?私が華道やってるの、そんなに似合わない?今度やってるところ見せてあげたいな。本気を出せば、それなりの気品があると思う……」
私はじっと保月の顔を見つめて、頭の中で色々なフィルターを通した。これは遺伝の力なのか、黙って頭を抱えていれば、不思議と気品の一つや二つ芽生えてきそうだった。それをどうにか覆い隠そうと、中学生の限界に挑戦している保月も垣間見えた。
何べんも繰り返してきた行為を、また今日、何時間も集中して取り組めるはずもなく、ぼんやりと浅い一日を振り返っていた。保月は言ってしまえばギャルっぽい。だけど名家というくびきにも繋がれている。私と同類、だとしたら親近感を抱えても許されるのかな。2時間経って、まだ2問しか解いていない現状が許されないか。