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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第7話:薄明逃避行
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やっぱり自白

 90点と満点の指示になら従ってくれるので、何とか小会議室に変な人を連れ込めた。それにあっさり罪を認めた。


「どうしてこんなことを……」

「それより、あなたたちがミステリーサークルですか」

「私は違いますよ。この二人だけです」

「頭いいけどコンサルに吸われる人たちだと思ってた。片方60点かぁ」

「そんなことばかり言ってて、喧嘩になっても知らないからな。我々が寛容なだけで」

「こんな風に怪しい武器商人から乞食した、特殊な装甲を纏ってると、誰も寄ってこないから問題ない。まあいいや、私は馬原(まばら) (みお)()。依頼があるの。この人を探して」

「目黒五郎助じゃなかったんだ……」


 澪都は人の質問を遮り、太々しい態度のまま一枚の写真を差し出した。そこには入学式の看板の前に立つ少女の全身が写っていた。物静かそうで、笑顔を作るのが苦手で、あまり権威に逆らわなさそうな、中学生だろうか。


 出会って早々テストの点数を馬鹿にされたのに、新しい謎が舞い込んでくると、すぐに懐柔するのがミス研の二人であった。


「この人の名前は?」

「馬原 (みな)()、私より5歳上の姉」

「でもこの写真は中学生だよね」

「言わなくてもわかるでしょ。失踪したのは最近じゃない。7年前」


 岩亀がしっかりメモを取っている。まあ現実的に考えたら、探偵はこういう泥臭くて生々しい作業をしているはずだよなぁ。


「つまり、これを頼みたくて、こんな小学生のいたずらみたいなことを、甲斐甲斐しくやったってこと?」

「試したの、姉を捜索するにあたって、信用できる人たちか」

「試せましたか……?」

「事態は切迫してるから、もうこれを渡りに船だと言い聞かせるしかない……」


 そもそも、そんなにテストの点数にこだわるのなら、それを判断材料にすれば良かったのでは?ここにいる人たち、全員頭のボルトが破断しているので、どんな点数でも馬鹿正直に答えてくれる。


「まあ自分たちは、被害者にサドルを返してくれさえすれば、全力で捜索します、というかさせてください」

「私も、和南城先輩に掛け合って、今回の件は水に流すよう言っておきますから。あっでも、次のテストでは見返してやります」

「みっ見つかったら、見つかったら感謝を申してさしあげる……」

「それじゃあもう少し、手掛かりをください。さすがにこれだけでは、自分と岩亀の天才的な頭脳をもってしても難しいので」


「できる限り手掛かりを提示したいけど、実は私もそんなに覚えてなくて」

「何しろ最後に出会ったのが7年前だからなぁ。小学ほんにゃら年生の時でしょ?」

「うーん、まずなんで失踪したの?」

「その辺の事情は、小学ほんにゃら年生の、しかも世間知らずな私が推測した内容ってことを先に断っておくけど、お姉ちゃんは中学生になってから多分、性格というか、特性が真反対で、明るくて、友達も多くて、根性が曲がってない彼女ができて、その人にめちゃくちゃにされた……私にとっては、今までと同じ優しいお姉ちゃんだったからどうでもいいけど、私たち姉妹を意地でも医者にしたい両親は、いちゃいちゃに夢中で成績が落ちたお姉ちゃんをどうにかしようと、引っ越すことを決めたんだけど、お姉ちゃんはきっと初めての友達、恋人だったから抵抗して、でも結局理解されるはずもなくて、なんかある日起きたらもういなくなってた」


 澪都はさすがに息継ぎしたし、ところどころ上を向いたりしたが、だいたい淀みなく啖呵を切った。つまり、やっぱり切羽詰まっているということだ。


「ふぅー、速記を会得しておいて良かった」

「ちなみに、どっち」

「衆議院ですよ」


「つまるところ、駆け落ちですよね」

「字面だけならロマンチックですよね。僕の知り合いもしてましたけど、元気にやってるかな」

「親御さんは厳しいの?」

「厳しいでしょうね。私も、この学校に受からなかった暁には、首を切られていたかも。でも、それ以外のことは全て放任。子供をいいところの医学部に入れて、父に並ぶ医者にすることだけしか関心がない。こんなにキャラの立った最高の医者、とっても面白いと思わない?」


 かたや娘が寿司の写真を撮っていたら、ギリシャでは侮辱的な意味になりかねないハンドサインをねじ込んでくる親もいるわけで、その格差で不憫には思ってしまう。


「あとは……この時住んでいたのは福山。誠にありがたいことに父は優秀なフリーランスの麻酔科医で、色んな病院から引っ張りだこ。だから昔からずっと日本全国を転々としてきた。うん、これが手掛かりの全部かな」

「こういうのでお決まりの、思い出の品とか無いの?」

「薄情……ミニマリストな我が親は、引っ越しの時に全部捨てたでしょう」

「なるほどなぁ……」

「もしかして、明日人生が終わるなら諦めたいとか思ってませんよね」

「皆さん安心してください。福山になら心当たりがあります。あ、笹川さんも、知り合いあたってみてください」

「やってみますけど、私の人脈は新潟に限りますよ……」


 どうやら人脈ない私の出番はないらしい。まっ、最悪の事態になっていないことを祈ろう。

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