表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第7話:薄明逃避行
137/212

純情温情乙女もうなだれる

「どうして、どぉーしてだよぉーっ、かりーん」

「まっ、本人は良かれと思ってやったことだろうから。その寛大な御心でご容赦くださいませ」


 黎夢の自白があった翌日の放課後、私は時雨にも真相を話した。予想通りわかりやすく、人目も憚らず、大声でうなだれながら地団駄を踏んだ。


 黎夢は自身の能力を人々に役立てようと、文化祭で占いという形で人々から悩みを集め、夢の中で寛解させて見せた。だが時雨の妹に関しては、黎夢が創作した部分が大きい。よって当然、何が正解かはわからないのだが、それならもっと時雨の負担にならないようにしてあげれば、こうやって全身で感情を逃がさなくても済んだだろうに。


「だいたい、あれじゃあ妹がかわいそうじゃん。ある日、姉の人格がまるっきり変わってたらさ、私だったらもっと過激になってるよ」


 私は木の枝でなめくじをつつく子供を見守るかのように、時雨をじっと見つめた。


「あっ、いや、だって、嘉琳もやられてみたらわかるよ。妹だなぁって気持ちになる」

「やっぱり人の心はあるんだねぇ」

「逆に、短く感じてしまう……。願ってはいけないことなのかもしれないけど、もっと上手くやれたかもしれないし」

「それはまた宇野木さんにお願いしたら、喜んでやってくれるんじゃない?」

「ばっっかじゃないの!なんで夢の中の登場人物に、負い目なんて感じさせられなきゃなんないのよ」


 やっぱりお怒りだったので、隣にある自販機で天然水を買って渡した。そりゃ、こんな狭量な人間に、コーヒーなんて奢れるもんか。


「わかってるじゃん」

「何が?」

「立花さんとミヤコワスレのせいで、もう市販の紅茶とかコーヒーには戻れんのさ」

「そういうことは、私以外には公言するなよー。痛い子だと認知される」


 と、ゆがんだ顔で時雨に迫って警告しておいた。


「それで、黎夢の悪事については終わり?」

「うん、そうだけど」

「じゃっ、今日は行かないといけない場所があるので。先に上がりますよー」


 時雨はそう言って、ベンチに置いてあったリュックを背負った。なんか、爽やかにせかせかしている。


「部活は?」

「事前に颯理に言ってありますー」

「ん?うーん、雪環さんのところとか?」

「なんでそうなるの」

「いやいや、どう考えても純情温情乙女の対馬海流来てたじゃん。妹だけじゃなくて、友達まで慮るんじゃないの!?」

「言われて思い出した。そんな人もいましたねぇ」

「ちょっと照れてるの?」

「うっさい。今日は本当にそういうのじゃないからね。というか、ゆきは嘉琳のほうが好きだろうし、そっちが会いに行けばいいじゃない」

「どうした……?卑屈になって」

「私はね、あんなに空蝉を恐れていたゆきが、嘉琳にはからっと心を開いちゃったのが、今になって腹立たしい……」

「ちなみに、私には時間稼ぎの意図はないからね。遅れても知らないよ」

「ゆきは、頼んだよ。やばっ、走るしかないかーっ」


 時雨は最後までふざけつつ、一直線に校舎から出て行った。深刻な話ではなく、私の助けが必要ないのは確実だが、単純に気になるので、とりあえず颯理に連絡してみた。信頼を損ねるようなことはしたくないし、何よりこの後、雪環の家に行かないといけなくなくなったので、代わりに追跡調査してもらおう。


「もしもし、こちらは笹……」

「はーい颯理、今学校を出て行った時雨を追えたりしない?」

「はっ、え?確かに、ここから校門に向かってる時雨さんが見えますが……」

「やってくれるよね?」

「え……、どうしてそんな、まるで脅すような感じなんですかっ」

「文化祭の時に、散々媚びを売ったでしょ。だから協力……」

「おいちょっと、うちの颯理に物を頼む態度か!?」

「ひえっ、ごめんなさいっ」


 東京を逆さまにしたかのような掛け声で、通話に小川が乱入してきた。小川が横にいるなんて聞いてないんだが。あんなの強すぎて番犬どころか結界だ……。


 とは言え、日頃の行いの善さを颯理様は見ていらっしゃるので、慈悲深く私のお願いを聞き入れてくれた。時雨が事前に連絡を入れて部活を休むほどの用事とは、一体何なのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ