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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第6話:夢を描ける少女
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友釣り

 無音を快感に変換出来たらどんなに幸せか。教室でもオフィスでも、手当たり次第に話しかけて、「すいません、ロマノフ家の血が騒いでしまいました」とか「親の愛は所詮イケア効果」とかほざけば、相手は返す言葉もあるまい。あいにく静寂を好むので、絵を描くどころかキャンバスを爪で引っ掻き回しただけなのだが。


「さて、今日はこの後どうしましょうか」

「今日をどうしてしまいましょうか?人類滅亡記念日にする」

「早速、記念日協会に連絡しましょう!」

「それより、新曲作りましょう!」

「えぇー、またぁー?」

「今度は、阿智原さんの言語チョイス入れたいですよね。色んな国の言語が操れるらしいですし」


 こうやって容赦なく私に注目を向ける人間は、誰であっても苦難の連続に見舞われ、なおかつ持ち前の明るさで周囲に相談できないでいてほしい。私が本から目を離さないでいると、スタジオに場違いなオタク2人が入場してきた。


「笹川さん、宇野木 黎夢って知ってますか?」

「宇野木 黎夢?それなら……」


 颯理と時雨の視線を感じる。私は駆け引きに負けてしまった。


「友達ですか?どこにいるかわかりませんかね……」

「さあ」

「阿智原さん、多分重要なことですから。もったいぶらないでくださいよー」


 事実を言ったまでなのに、私が性悪だと捉えられるのは心外である。


「えぇ……?借金の取り立てとか、探偵業務とか、そういう危ない輩じゃないの?むしろ阿智原さんはリテラシーがあるなぁって感心してた」

「この人たち、変な人じゃないですよ」

「ではどうして、宇野木 黎夢を探しているのさ」

「それは簡単、あの夢想空間を生み出した嫌疑があるので」

「夢見すぎ……。モルペウスは神話上の存在だよ」


「だけど、実際に体験した人がいる。事象が存在する以上、目を背けられませんね」

「被害者の多くは宇野木 黎夢と接触していることがわかった。彼女は文化祭の時に、占いの催しをしていてね。どうして相手の夢を把握しているのか、という問題はこれで解決する」

「なるほどー。夢を描く原理は置いておいて、夢を描ける情報を持っているのは彼女しかいないということですね」

「待って、占いなんてしてもらってないよ。というか、その言い方だと、私たち以外にも同じ夢を見た人がいるな?」

「その点は時雨さんに同意です。私も、特に深刻な話をした覚えがない……」


 自分たちの推理が、時雨と颯理に打ち砕かれた彼らがとった次なる行動は、強硬策に打って出ることだった。可能性が高いの、名前がそれっぽいの、適当なことを言って、意地でも黎夢を呼びつけようとした。


「何も知らなければそれでいいんですし。一回話を聞いてみましょうよ」

「はぁ……。だから、私は本当に知らないんだって。強いて最も確率が高い場所を言うなら、彼女の家でしょうけどね」

「じゃあ明日の朝にでも……」

「ここ数日学校に来てないよ。おかげで命を拾い集められているんだけど」

「ますます胡散臭さが増したな」

「でも決定打に欠けるね……。自供を貰わないことにはなぁ」


 夢の終盤、時雨の友人が暴走して、颯理たちに多大な被害を及ぼした。あの事件は黎夢が脚本しているというより、何らかの手違いや失敗と捉えるべきだろう。そして私は、命の危機というものを、生まれて初めて体の隅々までに行き渡らせた。そんな経験を私にさせてしまったことを、黎夢が勝手に悔いて、勝手に合わせる顔を捨てているというのが、彼ら顔負けの3秒で考えた推理だ。


「夢の話とは別に、ただただ心配だし、阿智原さんお見舞いに行ってあげたらどうですか?」

「そうですよ!あんなに懐いていたんですから、きっと頭の中が真っ白になります!」

「それはいいことなの?まあ、こちらとしても真相究明のために協力していただけると、欣快に堪えない……」


「わかった。でも誰か一緒に行きましょう。巻き添えを食らいなさい」


 本を閉じてこう言うと、一同お互いに顔を合わせて、目を泳がせてみたり、顎で指図したりして、醜く押し付けあってくれた。そして勝負の結果、颯理が同行することになった。まあ、厄介事を気軽に頼めそうな風貌だから仕方ない。


 担任が感情で動かされるタイプだったので、あっさり黎夢の家の住所が手に入った。


「き、きっと、阿智原さんが来てくれたら、頭真っ白になりますよ。……自白してくれますよ」

「友釣り?私は囮ですかそうですか」


 私は安心して本を開いた。


 黎夢は私が家に来ると、それはもうゾンビのように思考停止で襲ってくるかと思いきや、きちんと悄然としており、甘くてうざい声とか態度とかはそのままにしても、社会距離から詰めてくる気配はなかった。しょーじき、控えめに言っても、そのままフェードアウトしてほしいが、翌日、黎夢はしょげたまま登校してきた。

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