最初の謎
やけに高圧的で緊張感の走る尋問が始まった。いやまあ、その雰囲気を含めて、二人は楽しんでいるのだろうけど。隠す必要もないので夢のなかであったことを、最後の真朱帆が暴れたところも含めて、詳らかに話した。
「最後そんなことが……。嘉琳さんも巻き込まれたんですか」
「いやー、極めて夢らしい終わり方と言えば、聞こえはいいだろうねぇ」
「生徒会長はどんな終わり方だった?」
「私は、あのヌンチャクみたいなので殴られて、そこで目が覚めた。体から力が抜けて、倒れていく瞬間の記憶もあるんだけど」
「私は……あれ、覚えてない」
「結局のところ、みんなが願い事を叶えていくっていうのが、正解だったのかもわかってないですよね」
「そう言えば、時雨の願いも見つかったしね」
「そうなんですか?気になりますね、欲深そうですし」
今朝、時雨から話してもらったことも共有しておいた。残念ながら、欲深さで言えば颯理のほうが上だ。なんと残酷な夢なこと。
「夢が気にすることのできない潜在意識を可視化するというのは、おかしな話ではない。どこかで欲しいと感じる機会があったんじゃない?」
「そうかなぁ。時雨が妹を持つと堕落するよって、警鐘を鳴らしたかった人がいるっていうほうが、まだしっくり来る」
もちろんそれは自分のことではない。時雨に妹がいたら、なんて妄想を描いたこと自体が一度も無いからだ。堕落しそうという予想には、工事現場でコンクリートを固めている機械ぐらい激しく頷けるけど。
それはそうと、私が “夢を知覚している人” と尋ねた時に、何らかの事情で手を挙げなかった人がいるかもしれないし、そもそもあの場に招集されていないDream Gazerがいるかもしれない。よって、全ての現実改変に意味がある可能性もあるというわけだ。夢の中の自分、もう少し頭使ってくれないかなぁ……。
「まあ夢から醒める方法云々も、真犯人を問い詰めれば良かろう」
「それって、誰かによる犯行だと決めつけるってことだよね」
「自分はそう考えているよ。この夢空間は、誰かが一元的に作り出したものだと」
「それだとJR東日本が答えになっちゃうよ」
「まっちゃん、この人凄いね。ひな壇芸人として、ミステリーサークルに籍を置いてほしいなぁ」
なんか岩亀から褒められた。日頃の鍛錬の成果が出ている。名誉として受け取っておこう。
「いや今関係ないから……。えっと、じゃあ従来の夢とは一線を画す概念だから、夢想空間って用語を作ろう。もし夢想空間が夢を見た被験者たちの共同作業だとしたら、対立が起きずに上手く願いが叶うだろうか?誰かが全員の情報を集め、それをまるで文化祭の時の我々みたいに、いい感じのストーリーにして夢にした。納得感があるでしょ?」
「その犯行をした人が、身内かどうかまではわからないですよね」
「なんか時雨がきな臭くなってきたな……。私や颯理、もちろんフェスも、ラスボス立花さんを深く知らないでしょ?だけど、時雨は同じクラスで、そこそこ仲良かったはず。全員の願いを知ることができるのは、あの中なら時雨だけじゃないかな」
「その人は、ちょっと裏がありそうな感じ?」
「裏?ある意味、裏表がなさそうな人だよなぁ。颯理」
「はい……、グレーゾーンでも怖がって、手を入れなさそうですよね」
「例えば、皆の脳に何らかのデバイスをつけて、共通の夢を見せている、のように、夢想空間の原理を説明するには、何かたいそうな仕掛けが必要なので、彼女一人の犯行でなくても、彼女がそういう実験を行うような組織と繋がりがあれば、疑ってみる価値はあるね」
「なんか陰謀論じみてますね。妄想っぽくなってますよ……」
「では、どうやって各々の布団で寝ている複数人の意識を結合するのさ」
「そもそも、時雨の性格からして、自分に不利な条件を課すかと考えてしまう。そういう策略と言えばそれまでだけど、疑うなら私じゃない?何の願いも叶ってない」
「確かに、嘉琳ちゃん怪しい!」
水を得たオオサンショウウオのように、陽菜が元気よく魔女裁判を始めた。
「と思ったけど、一緒に逃げたし違うかー」
不起訴処分になった。ここで、つまらない名目だけの会議に出席したような態度で話を聞いていた岩亀が口を開く。
「この世界に、確かに陰謀は存在するけど、それが表沙汰になるわけないじゃないかー。僕はオカルト説を推すよ」
「それこそ胡散臭くないか。くわばらくわばら連呼すれば、雷が落ちてこないとでも言ってるようなものやん」
「結局、夢想空間を作るには、従来の夢を誘導する技術では足りず、新しく作ったゲームを直接脳内に流し込む必要がある。こんなことができるのは、みんなの素性を知っていてかつ、魔術に明るい “人間” だけだよ」
「結局、陰謀論からは抜け出せてませんけど……」
「いやいや、陰謀論ではなく都市伝説だから」
と、岩亀は自信に溢れている。颯理はどうしてこんな人たちに期待したんだ?松下も、また馬鹿なこと言ってるみたいな顔をしない。あんたも同じようなことを、さも素晴らしい推理の賜物として語っていたのだから。こんなので目を回される陽菜がかわいそうに思えてくる。