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思い立ったが淡雪  作者: Ehrenfest Chan
第6話:夢を描ける少女
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夢見る少女の公会議

 昼休み、嘉琳とか颯理とか、仲の良い人たちで生徒会室に集まった。嘉琳の提案で、他に仲の良い友達も連れてくるよう言われたので、私は真朱帆を連れていくことにした。彼女は夢の世界であろうと、アタッシュケースに茶会一式装備を詰めている。しかし、これは夢とか関係なく、4月の反省を踏まえて、タングステンのおもりも詰め込まれているらしい。並みの筋力では重力に勝てない。


「いやー、これは気が触れているというわけではなく、私の率直な直感なんだけど。この世界は夢だよねぇ」

「嘉琳ちゃん、急にどうしたの?えっと、みんなそう感じてるってこと?」


 私も嘉琳の提言に力強く頷いた。周りを見渡すと、蒔希のようにピンと来ていない人もいれば、恐らく同類であろう人もいた。


「まずは、それに同意するよーって人、手を挙げてー」


 嘉琳がそう呼びかけたので、私は元気良く、小学生に帰った気分で手を高く挙げた。周りを見渡すと、挙げていない人もいた。私が一方的に知り合い扱いしている人だと、蒔希や天稲、黎夢、成、芽生が手を挙げず、そのまま退散していった。


 生徒会室には超絶キュートな時雨と嘉琳、颯理、小川、桜歌、陽菜、常葉、真朱帆が残って、百家争鳴の大論争を巻き起こした。


「良かったぁー。この感覚、私だけじゃなかったんだ」


 まずは一息つきたくもなる。


「夢なのに動けるなんて、どうなってるのーっ」

「フェスさん、明晰夢ってやつだよ。知らない?」

「夢だと知覚しながら見る夢だよね。私も初めて見た」

「何それ、とにかく頭を大幣でぬさぬさされてる感じがして気持ち悪いから、早く醒めてよ!」


 真朱帆の説明を聞いて、陽菜が余計に混乱している。


「でも、冷静に考えたらおかしな話だよね。夢というのは、その人の記憶を引っ張り出して作られるものなんだから。明晰夢にしても、夢であることを知覚している人が、こうやって円卓会議を開けるのは筋が通らない」


 桜歌は明晰な見解を述べた。


「ということは、この中に人狼がいるってことだなぁ!?」

「興奮しているところ悪いけど、村人のほうが1人だよ」


 そしてやけに楽しそうな嘉琳を諫めた。


「何者かが私たちに夢を見ていると錯覚させている……のかな」

「それは陰謀論みたいで、あんまり納得できないなぁ」


 私もどちらかと言えば嘉琳のように、陰謀論に拠り所を見出したくなる。こうして陰謀論とは形作られていくのだ。それなら、インターネットで飛躍的に情報にアクセスしやすくなった現代において、陰謀論が止まることを知らないのはなぜ?


「はいはい、一つ質問いい?」

「いいですよ、どうしたんですか?」

「いや、皆さん、どれくらい現実改変された?私は妹できてたんだけど」

「え!?どうだった、かわいかった!?それともちょっと生意気だったっ?」

「私も気になるぅー。会って般若心経を読み聞かせたいぃー」


 常葉と陽菜が目を輝かせた。


「ただの双子だよ……」

「もしかして制服が違うのも、現実改変ですか?」

「多分ね。実は白高の生徒じゃないことになってた。どうやらこの夢の設定上の私は、凡庸な知能しか持ち合わせてないみたい。おかげで気を抜くとsin 60°の値すら出てこない」

「あれ、sin 60°っていくつだっけ?」

「今それはどうでもいいでしょ……」

「どうでも良くないよー!」


 陽菜の魂の叫びにより、桜歌が少し怖気づいた。


「でもほんとに、次のテスト、どうしよう……」

「あんなので進級できるの?あー、私も人のこと言えない……」

「夢の中で勉強する?颯理」

「それは結構ですっ」


「あのー、わたくしも現実改変に直面したんです。亡くなった人が蘇るっていう……」


 真朱帆が恐る恐る切り出した。まあ、部外者は彼女一人しか残らなかったので、この空気に置いてけぼりにされていそうだった。


「私も現実改変された。何が……とは言いにくいんだけど」


 颯理と顔を赤らめやがった小川が、お互いの顔を見合わせた。


「私は何も……、あっ些細なことだけど、お父さんが予定より早く家に帰ってきてた」

「颯理と常葉先輩は?」

「皆さんあるんですか?私は何もなかったんですけど」


 小川が動揺したのか、手を突いていた机が転がり出して、物音を立てたのを私は見逃さなかった。


「だいじょうぶ~、私もなかったからぁ~」

「なるほど。うーん、私のは現実改変されたと言っていいのかな。だってあれは、この世界の物理法則だから、万人に共有されているはずだもんなぁ」

「あっ、そうそう、今日授業中にカップを落としたんですけど、中の紅茶が全く床にこぼれなくて、不自然だなぁって思ってたところだったんです」


 真朱帆には実際にこの場で実演してもらった。カップを少し傾けるぐらいでは、中の紅茶がまるで粘液が入っているかのようにこぼれる気配を見せず、ある角度に達すると、全ての中身が忽然とバケツの中に移動した。


「やっぱり、この世界の物理法則は、どこかおかしいんだよなぁ」

「なんか光のグラフィックが安っぽいよね」

「夢だから、矛盾ぐらい起こるってことなんだろうか」

「確かに。おばあちゃんに追っかけ回される夢見たことあるもん。普段あんなに優しいおばあちゃんが、あんなに怒ることなんて無いもんね!」

「それは知らんけど、私はわくわくするからどうでもいいや」

「それは知らんけどじゃないよーっ。死活問題だよーっ」


「そもそもぉ、醒めない夢は無いって言うのにぃ、いつになっても醒めないのも変だよねぇ~」

「そう、ほんっとにそれですよね。なっかなか、目覚めないんだよ。頭を窓に打ち付けてみたりもしたけど、後々脳に回復不能な機能障害が顕現しないか心配になってやめちゃった」

「えーもったいなくない?小川女史。もう少し、楽しんでもいいんじゃない?」

「まあ、悪くないよねぇ、夢の世界も」

「ちょっとちょっと、私はこんな世界に長々と居座りたくないんだけど」


 嘉琳と真朱帆に釘を刺しておいた。妹の存在や自分がお馬鹿キャラに仕立て上げられているのも癪に障るが、それ以上に夢に呑み込まれるというのが、バッドエンドへの道しるべなのは、古今東西の常識だからだ。


「もう何にもわかんないけど……。この夢から解放されるには、何かを成し遂げないといけないとか、あるのかなぁ」

「そんな、ゲームみたいなことあるかな……。どう思います?」

「まあもう、集団で同一の夢想空間に閉じ込められるっていう、一種のファンタジーの真っ只中なわけで、今さら逆ゲッシュが設定されていると判明しても、夢から醒める目途が立って良かったって反応にしかならないわ」

「だけど、私たちが知らず知らずのうちに、国際犯罪の片棒を担がされていた、なんていうのはまっぴらごめんだから、何をされられているのか分かればいいんだけどねぇ」

「それはそれで、 “夢” があるじゃない」

「時雨、物語の主人公のように、プロの捜査機関や敵対組織の目を、四六時中欺き続ける、息のつけない毎日を送れる自信、ある?」


 夢の中なのに小川に現実を突きつけられた。ここで予鈴が鳴ってしまったので、続きは放課後ということになった。

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