8:聖獣様はお子様
「マックは私のことなんか好きじゃなかったのね!?だからそんなことが言えるのよ!」
「誰もそんなこと言ってないじゃないか!」
「言ってるようなものだわ!昔から私の一方的な想いですものねっ!」
「ギャレンシアは僕のことが信じられないって言うの!?僕は…、僕はずっと君しか見えていないんだよ?君がいなくなったら僕は…」
「マック…」
待てコラ。
いい加減にしろよ?
振り回される身にもなってくれ…。
皇女様には小さい頃からの婚約者がいた。
幼なじみ、相思相愛、家柄も申し分なし。
それがここにいらっしゃるマックさん。
優しい顔をしてるのが一番の特徴と言える。
裏を返せばほかに特徴がないっていう、かなり薄い人になってしまうけど…。
それは置いておこう。
そこで現れたのが千年に一度の聖獣“フェニアース”。
と同時に親もだ。
しかもそれが男ときたもんだ。
「聖獣の力を手に入れるために娘を嫁に出すしかない!」
と、国王様はそこでそう思ったらしい。
簡単に言うと政略結婚だ。
そんなのはこっちだって願い下げな話なのに、勝手なもんだ。
これだから俺は王家には入れそうにないって思ったんだろうなぁ。
今となってはどうでもいいことみたいだけど。
つうか、ここでラブロマンスを見させられてる俺たちってなんなんだ…?
ギャレンシア皇女とマックさんは手と手を取り合い、お互いに熱い眼差しで見つめ合った。
いや、万々歳なんだけどね?
俺としては「待ってました!」って展開なんだけどね?
放置はやめようよ。
呼び出しといて放置はやめよう?
「ぐぅ!」
俺の気持ちに気付いたソラが大きく鳴いた。
さすが俺の子。
親に似てよくできた子供だ。
よしよし。
皇女様とマックさんはこちらを振り返り、同時に肩を落とした。
…何何何何!?
呼び出しといてその反応ひどくない!?
どんだけ傷つけんだ、アンタらは!
俺の心もうズタボロなんすけど…。
「私はあなたと結婚しなければ…。“フェニアース”を手中に納めるためには…」
うーん。
まぁ、そうなるんだよねぇ…。
「おれ…、私の気持ちを正直に言ってもいいですか?」
「聞きたくないわ」
………あ、うん…。
なんだろうね?俺って。
俺も人間なんでね。
こういうことになるとね。
うん。
すごい泣きたい気分だよね。
そんな俺の憐れみを汲んでくれたのはマックさんで、皇女様を「まぁまぁ」てなだめてくれた。
めっちゃいい人だ、マックさん。
どうせ政略結婚するんならマックさんみたいな人のが良かったよ。
うん、大真面目に。
「おれ…、私がもしギャレンシア皇女と結婚したとしても、ソラを私利私欲のために利用することは、その…、ごめんなさい。できません」
ソラは下から俺を見上げた。
まだまだ子犬の大きさの小さな聖獣様。
誰かの保護が必要な聖獣様。
なら俺が守ってやるしかない。
だって親だし。
まぁ、不可抗力だったけども…。
「もし城かソラかを選べと言われたら、俺は間違いなくソラを選びます。……あ…」
さっきまですごい気使ってたのにぃー!
俺って言っちゃったじゃんよー!!
俺のさっきまでの苦労を返せ俺!
あーあ…。
もういいよ。
もういいよ俺。
自分で自分が情けないわ。
ちょっと格好いいこと言ったんだけどなぁ…。
気を取り直して皇女様とマックさんを見ると、皇女様の方はなんとも言えない表情をしていた。
ご、ごめんなさい…?
一方マックさんは俺をキラキラした目で見つめていた。
ごめんな……ってえ?
キラキラした目?
「す、素晴らしい!」
ぎょっ!!
ていう効果音がぴったりな反応をしたのは、俺とカスティーダだ。
ソラと皇女様はきょとんとしてる。
ぎょっとしたくなる気持ちを察して欲しい。
さっきまで怒ったり悲しんだりしていた人が、今はなんか…、感動(?)してる。
なんだか忙しいというか、表情豊かというか…。
とにかく素晴らしいのはあなただと思います。
「その聖獣を想う優しい心!ギャレンシア、いや、国家に立ち向かおうとする勇気!いやぁ素晴らしい!!」
ちょちょちょ…ちょっと待て…。
俺いつ国家に立ち向かった!?
ちょっとどころじゃなく、すんごく勘違いしてません!?
「気に入った!僕は決めたよ!君を養子にとることにする!!」
「「えぇぇ!!?」」
俺とカスティーダは後ろに飛び退く勢いで叫んだ。
心臓バクバクいってるよ!
俺貴族の仲間入りしちゃう!?
「君は僕の弟になる。そして僕はギャレンシアと結婚する。そうしたら君は王家と親戚になる訳だ。これなら国王様も承諾してくれるはず!」
あの一瞬にそこまで考えたんだ?
しかもさっきとキャラが若干変わってる気が…。
そこはまぁいいとしても。
「マック…。すごい…、すごいわ!あなたは天才よ!!」
とうとう抱き合いましたよ、この人たち。
「ねぇ、どう思う?カスティーダ」
「あ、あぁ…。なんか展開が目まぐるしくて…」
「うん。俺も。頭がうまく働かなくてよく分かんない…」
「まぁでも…あれだな。良かったんじゃね?」
「え?」
「貴族になれて贅沢な生活できるし、もう聖研から出られるぜ?」
あ。
「あぁ!そっか!」
俺は二つ返事でマックさんの話に乗った。
という訳で、これにて1章おわり。
なんか…、あれですね。
この話の登場人物たちって自由です。
作者の意向を完璧無視されました。
作者なのに立場がないっすよ…。
ということで、1章終了しました。
当初の予定では1章も何もなかったんですけど…、まぁいいでしょう。
たくさんの方々に読んでいただけてるようで、とても嬉しく思います。
この後の展開がまったく分からないので、次回予告すらできません。
気分とノリと登場人物たちに身を委ねているので…^^
今後とも聖獣様をよろしくお願いします。
あとがきまで読んでくださって本気で感謝します。
感想なんかもお待ちしてます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!