6:聖獣様は人気者
それは突然だった。
心の底から「えっ?」て感じになった。
まさか?
これってまさかな展開?
喜ぶべき?
いやいや、勘弁してって感じなのか?
っていうか、俺こんな人気者になったの初めてなんすけど。
ぶっちゃけ悪い気はしない。
はっきり言うと全く悪い気はしない。
「ケリア君、きみに養子縁組が来ていますよ」
おじいちゃんの助手の1人が、大きめの茶封筒をドサッとテーブルに置いた。
はい、そうですね。
ドサッていう音がめちゃめちゃ重要です。
1、2って話じゃない。
数えるのもそれなりに時間が掛かるぐらいな量。
俺の背後で
「おぉ〜すげぇ。ケリア人気者だなぁ」
とニヤニヤしてるカスティーダがいる。
他人事だと思って楽しそうに…。
俺は目を丸くしてその茶封筒を見つめた。
もう茶封筒に穴があくんじゃないかなってぐらいに。
その茶封筒の傍らでそれを不思議そうに見ているのがソラ。
いつもなら
「テーブルの上に乗っちゃいけません!」
って言うとこだが、只今そんな余裕は露ほどもありません。
だって養子縁組だよ?
縁組だよ?
つまり結婚っすよ!?
まともな彼女すらいたことのない俺が、いきなり結婚ってハードル高っ!
ていうか、なんで俺の養子縁組?
「この中から選んでもかまいませんが、そうしない方が賢明だと思います」
茶封筒を持ってきた眼鏡の助手くんが言った。
しかもすごい真面目な顔で。
カスティーダが
「だなぁ」
とか間延びした同意をしているが、俺は何も理解できてない。
えっ、なになに?
なんでなんで?
「理解力がないっつうか、馬鹿っつうか…。そんなのも分かんないのか?」
はいはい。
悪かったですね!
暴言とかもういいから!
本気で傷付いてるからね!?俺。
少しでいいからそういうのはオブラートに包んで!
本当にもう少しでいいから!
けっこう切実。
「ケリアが聖獣様の親だからだろ」
あ、やっぱり?
ソラのせいなんだ?
いや、気付いてはいたよ?
薄々だけどね…。
しょせん俺のモテ期なんてそんなもんだよね!
「で、なんでソラの親だと俺がモテるの?」
はい、そこでため息するのやめようよ。
どんだけ俺を落としたいんだ、お前は。
「それは聖獣様が強大な力を持っているからです」
メガネの助手くんがさらっとそんなことを言った。
きょ、強大…?
強大な力ってなんだ?
いや、千年に一度っていうぐらいだから何かが凄いんだろうなぁってのはあったけど…。
力が強大だけじゃアバウトすぎて分からん。
「た、例えば?火ぃ吹く、みたいな…?」
「お前の中の聖獣は怪獣か」
すかさずカスティーダのツッコミが入った。
しかし、そのツッコミはあながち間違いでもないのが痛い。
実際今の俺の印象はそんなもん。
「…さすがに火は吹きませんが、“魔法”染みたものは使うらしいことは分かっています」
「ま、まほう…?」
はい、入りましたー。
ファンタジーっぽいの入りましたー。
「まぁ今はそれよりも、だろ。縁組の方が先決」
あぁ、そうだった。
ソラ、というか聖獣の話が出るとどうも話が反れてしまう。
すごい影響力。
まだ20年そこらしか生きてない俺とは比べ物にならないってか。
…こんちくしょう。
「なんか怖いから、全部断ることにする」
あんな話をカスティーダと助手くんから聞かされた後で、これ以外の言葉が出てくるだろうか。
いいや、無理に決まってる。
しかし助手くんは積まれた茶封筒の一番上の物をこちらに差し出してきた。
「えっ?」
こん中から選ばない方がいいんじゃないの?
え?
意味違った?
カスティーダも不思議そうにしてるとこを見ると、やはり助手くんの行動はおかしいらしい。
「こちらだけは簡単には断れません」
俺は茶封筒を受け取った。
横からカスティーダが覗き込み、パタパタとソラもこちらまで来て後ろから覗き込んだ。
お前は見たって分かんないだろうが…。
別にいいけど…。
「差出人…、ギャレンシア!?」
カスティーダがそう叫ぶと同時に、俺の魂はひょろっと抜けた。
俺、このまま天国行っちゃおうかな。
その方が絶対楽になれると思う。
ありえない。
「我が国の皇女様からの養子縁組の要請ですからね」
さらっと言わないで。
そして口に出さないで。
現実見たくなくなるでしょうが。
マジでこの世界に帰ってこなくなっちゃうよ?俺。
もしそうなったらごめんな、ソラ。
王家なんて、つか国家からの養子縁組なんて、どうやって断るんだよー!!?
神様のばかやろー!!
あ、いや…。
神様すいません。
ソラの出番が少ないのなんでだろう?
しかも助手くん名前すら出てきてないや…;
最後まで読んでいただきありがとうございました。