39:聖獣様と決断の時
おーい、ソラー!
まったく、どこ行ったんだよ…。
せっかくクリストファーがソラにおやつってくれたのに、この肉。
聖研にいる時はこんな肉食えなかったよなぁ、ソラ。
…カスティーダ元気かな。
あーあ…。
俺なんでここにいるんだっけか…。
あぁ、逃げたんだったっけ…。
逃げて、どうするつもりだったんだろ、俺…。
逃げて解決する訳ないに決まってんのに…。
あ、ソラ。
お前今までどこに…、ってうわ!
泥だらけじゃねぇか!
こら、くっつくな!じゃれつくな!
汚れるだろーがー!!
マック兄さん率いる軍隊にその他の聖獣たちを任せるとして、俺はソラと共に聖域を目指した。
目指すと言っても、この本家がすでに聖域なので、あとは地下に行くだけなのだけど。
「鍵は渡した。場所も教えた。あとは俺様にできることは何もないよな」
クリストファーは俺に笑みを向けてきた。
一年前はキライだったこの笑みが、いつの間にか心強いものになってる。
「頼みが2つほど」
この期に及んで図々しいかな?
でもまぁこれぐらい。
「俺様に?」
「うん。カスティーダを探しておいて欲しいのと、それと…」
すべてが終わった後の未来の話をするのはとても楽しかった。
「ぐぅ」
「ん?どうしたソラ?」
地下に続く階段が終わると、そこには鉄の塊のような扉が現れる。
俺がこの本家に住んでいた時はわからなかったこの扉。
この奥に世界の災厄を止めることも起こすこともできる何かがある。
もしかしたら俺の不安を感じ取ってしまったのかもしれない。
ソラは頭を俺の体に擦り付けてきた。
よしよしと昔みたいに撫でてやると、ソラはやはり気持ち良さそうに鳴いた。
まだこの時点でもどうしたらいいか分からない。
どうしたらいいかなんて、決まる訳ない。
それでも時間は止まってくれなかったから、俺は進むしかなかった。
ソラも止まらなかった。
だから俺も立ち向かった。
強くなりたい。
強くなろう。
今から俺たちの結果を出そうじゃないか。
「神様には負けないようにしような」
「ぐぅぐぅ」
俺はポケットからクリストファーから貰った鍵を取り出した。
鍵穴は扉の中心部。
俺はためらうことなく鍵を回した。
中は真っ暗で、光が一つもない。
さっきまでの爆音やら聖獣の叫びやらが、ここに入った瞬間に何も聞こえなくなった。
洞窟っていうとジメジメしたイメージだが、ここはどちらかというと乾燥している感じだ。
壁は砂?みたいに触るとさらさらこぼれ落ちていく。
ってこぼれ落ちる!?
く、崩れないだろうな…。
「ソラ、何か感じるか?」
「ぐぅ…」
何にも感じないってか…。
なんかスピリチュアル的なものを感じると思ったんだけどなぁ。
さぁて、どうしたもんかな。
「行き止まりなんですけど!」
何に突っ込んだのか分かんないけど、とりあえず本能のままに叫んでみる。
まさかここまで来て放置プレイ食らわされるとは思わなかった。
「あー…、なんだ、叫んでみろソラ」
ほかになんも思いつかないしな。
って、そんな疑わしそうな目で俺を見るな。
親をそんな目で見るな。
ソラは渋々といった様子で「ぐぁー!」と洞窟中に響き渡るように叫んだ。
渋々って失敬な!
そして洞窟の奥の壁から光が放たれた。
ほら見ろ!
俺の言った通りじゃないか!
光は見る見る内に大きくなり…、人型になった。
「よ、妖精…的な?」
金髪美人といえばいいのか、とにかく妖精みたいな可憐な美形な女性が光に包まれている。
これがラスボス?
た、闘えねぇ…。
この人と闘うなんて男の風上にも置けない奴になってしまう!
って、何言ってんだ俺…。
「ここは聖域。世界を破滅に導く場所。汝は何を望みますか?」
まさしく鈴を転がしたような声。
いや、待て。
いったん落ち着こう。
まずここは聖域だ。
ソラが叫んだからこの妖精が現れた。
ソラの災厄に関しての存在意義ってそれだけ…?
「あなたは何者、ですか?」
神様だったら信用ならないし。
確認確認。
「私は神でも悪魔でも人でもない、まったく別の存在。千年に一度しか目覚めぬ私を起こすことができるのは、同じく千年に一度しか神のみが産むことしかできないフェニアース。またフェニアースも神でも悪魔でも人でもない存在」
てことは、聖獣は神の遣いっていうのは嘘なのかも。
ただ神が作っただけってことか。
まぁそんなのはどうでもいいけど。
「汝に問います。ここにたどり着いた汝に与えられた選択権。そしてそれに支払われる代価」
「代価?」
「望むだけでは何も得られません。それに見合った代価、例えばフェニアースの命」
あぁ、なるほどね。
だから災厄を起こすにも止めるにもソラが必要って訳か。
千年に一度しか産まれない聖獣様の価値って相当なんだろうな。
なーんだ、そんなことかって俺は心の中でほっとした。
「だってさ、ソラ」
ソラは俺の体に頭を擦り付けた。
ソラ、今までいろいろあったけど楽しかったな。
俺はお前のこと忘れない。
ソラも俺のこと忘れるな。
って、別れるつもりじゃないけどさ。
だって答えは簡単に出ちゃったからさ。
「災厄を止めてください。代価は…」
その瞬間、世界は静寂に包まれた。
いっきに走り抜けましたよね、この話。
一見終わりっぽいですけど、一応最終回は次となります。
皆様、次まで粘って読んでください!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。