35:聖獣様の知らない目
今までいろいろあったけど、俺はソラに出会えてよかったと思う。
父さんも母さんもじいちゃんもばあちゃんも亡くした俺は、はた目に見ても天涯孤独に見えたはずだから。
ソラのおかげでたくさんの人に出会えた。
ソラのおかげで俺は強くなれた。
ソラのおかげで俺は寂しくなくなった。
そんなソラを1人になんかしないからな。
俺は絶対ソラを見放したりなんかしない。
クリストファーの部屋は、すでに部屋ではなくなっていた。
部屋には扉の周りから壁がなくなっていて、聖獣に壊されたのが容易に分かる光景だった。
あの中にソラはいるのか、クリストファーはいるのか。
考える前にその部屋に飛び込んだ。
「ソラ!クリストファー!」
部屋にはソラもクリストファーもいた。
俺は怖かったんだ。
ソラがクリストファーを襲ってるんじゃないかって、すごく怖かった。
襲ってはいなかった。
けど…。
「来るな、ケリア!」
なんでソラもクリストファーも血だらけなんだ?
なんで向かい合ってるんだ?
お前たち、戦ってたのか?
ソラは俺を見た。
俺はこんなソラの目を知らない。
こんなソラを俺は知らない。
これはソラじゃない。
「またあなたですか!ことごとくフェニアースの邪魔をするのですね!」
ソラの背に乗るのはあのハツカネズミだった。
こちらを見て女の子のような声で怒っている。
怒りたいのはこっちだ。
「お前がソラにこんなことをさせてるのか!」
ソラがこんなに血だらけなのも、クリストファーがこんなに血だらけなのも、本家がこんなにボロボロなのも、全てがハツカネズミのせいならば。
俺はお前を許さない。
それが神様の望んだことだったとしても、俺はお前も神様も許さない。
「ソラやめろ!何考えてんだよ!?俺たちの仲間を襲うなんて、どうかしてる!」
しかしソラは俺を見据えたまま何も言わない。
ただただ俺を見つめるだけである。
「ソラ、どうしちゃったんだよ!?」
狂っちゃったとか言うなよ?
操られてるとか言うなよ?
お前はそんな玉じゃないだろ?
「ケリア!お前は下がってろって!今のソラは正気じゃない!」
クリストファーがソラの向かい側でそう俺に叫ぶ。
正気じゃないって何?
聞くまでもなく、俺の頭は理解していた。
今のソラに俺の声が届いていないのが分かったから。
クリストファーはいつも飾りかと思っていた腰の剣を抜いていた。
もちろんその刃には血がべっとりと付着している。
あの血がソラでないことを祈ると同時に、裏切った仲間をばっさりと切り捨てるだろうクリストファーの性格からして、その祈りが届かないとも思った。
泣いてもいいかな、何も変わらないのは分かってるけど。
どうしたらいいか分からないよ。
カスティーダ、お前の期待には答えられそうもない。
だってソラが少し変わっただけで、俺はすごいショックを受けたから。
「下がっていられる訳ないでしょ。その正気でないそいつを正気に戻すために来たんだもの」
ピーナが俺の前に立ちふさがった。
どうしたらピーナみたいに強くなれるんだろう?
そしてそんな強いピーナがどうして俺なんかと結婚したいと思ったんだろう?
「だから勝手に傷付いた顔しないで。殴りたくなるわ」
いっそ殴ってくれた方がいいかもしれない。
とても冷静に物を考えれる感じじゃないよ。
「正気に戻しなさいよ。親でしょ」
『ケリア、友達とケンカして殴っちゃったんだって?』
『………』
『なんで殴っちゃったんだ?』
『…もうじいちゃんにおこられたから、いいよ』
『じいちゃんはじいちゃん、父さんは父さんだよ。言ってごらん』
『…あいつら、おれのこと、いなかものっていうんだ。おまえのかぞく、みんないなかものだって…』
『あぁ、なるほどね。だから殴っちゃったんだ』
『……おこらないの?』
『うーん。殴っちゃったのはよくないことだけど、ケリアの気持ちは分かるからね。怒る気にはならないかな』
『…親なのに?』
『いや、親だから、かなぁ。ケリアの親だから、ケリアの気持ちは少し分かるよ』
親だから分かること。
そっか、分かったよ父さん。
俺もソラの気持ち分かるもん。
ソラはこんなこと、絶対したいと思ってない。
助けてあげられるのは、親である俺だよね。
「ありがとう、ピーナ」
俺はピーナの肩をぽんと叩いてソラに向かって走った。
ソラが俺に威嚇をした時の唸り声を上げたが、気にせずに俺はソラに向かって走った。
俺は誰よりもソラを理解してるって信じてる。
ソラは誰よりも俺を信じてくれてるって信じてる。
ハツカネズミがなんだ。
聖獣がなんだ。
神様がなんだ。
誰がなんと言おうと、俺はソラの親なんだよ。
偶然という名の必然って、よく言うだろ?
俺とソラの関係ってまさしくそれだ。
『ケリア、父さんもうすぐ死んじゃうけど、寂しくなんかないぞ』
なんで?
いなくなっちゃうんでしょ?
やだよ。
ずっといっしょにいてよ。
『ずっと一緒にいるさ。父さんはケリアのことを信じてるから』
信じてる?
『だからケリアも父さんを信じるんだ。そうしたらいつまでも一緒さ』
…うん。
『信じることって、意外と難しいんだよ。でもケリアならできる。父さんの息子だもんな』
うん!
信じてるよ、今でも父さんのこと。
だから父さん。
俺に少しだけ勇気と奇跡をちょうだい。
それを俺の子供にあげたいから。
どうしちゃったのソラ?
どうなっちゃうのケリア?
父さん何者?
次に決着が着いてくれると嬉しい流れですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。