31:聖獣様の居ぬ間に‐3
簡単な身支度を簡単に済ませて、夜も深まった頃にこそこそと聖研を抜け出した。
まるで夜逃げだなぁと思い、すぐに大差ないことに気付く。
いつも傍らにはソラがいた。
俺の人生で見たらほんの一握りしか共に過ごしていないのに、ソラが隣にいることが当たり前で、逆にいないと落ち着かない自分がいる。
寂しがり屋なのか弱いのか、今の俺はどっちに分類されるんだろう?
どっちでもいい。
このまま終わらせたりしない。
絶対に。
ウィーグルス兄さんはしばらくじっと俺の顔を伺っていたが、その顔が突然くしゅっと緩んだ。
緊張感のあった空気はあっさりと1年前のそれに成り代わってしまい、俺はウィーグルス兄さんに情けない顔を拝ませてしまった。
「ケリア」
「え、あ、はい…?」
「私はケリアが弟であったことを、今もこれからも誇りに思う」
そう言ってウィーグルス兄さんはにっこりと俺に笑いかけた。
は?
え?えっ、…へ?
ちょちょちょ…。
「はえあぁ!?」
って驚きすぎて変な声で叫んじゃったよ!
案の定「バカ野郎!」とカスティーダに叱られた。
その姿を見てウィーグルス兄さんは笑顔をより一層濃くさせて、「はっはっは」と声を上げて笑った。
出た。
ウィーグルス兄さんのツボが理解できない笑い声。
嬉しさ半面、ちょっと待ておい!てな感じ。
さっきまでのあの雰囲気はどうした!
俺がそう叫び出す前に、ウィーグルス兄さんはカスティーダとピーナの方にその笑顔のまま視線を向けた。
「私の弟を助けてくれてありがとう」
ウィーグルス兄さんはぺこりと頭だけを2人に下げると、ピーナは当たり前のように下げ返しているが、カスティーダは慌てて深く腰を折った。
「と、とんでもありません!」
カスティーダは聖研の人間だ。
だからかは分からないが、貴族の上下関係をよく理解しているのかもしれない。
ウィーグルス兄さんに深く頭を下げているカスティーダを見て、俺はそんなことを考えていた。
これがきっと普通の光景であって、俺がこの兄弟になったのが奇跡というより天変地異に近い。
これぞまさしく世界の災厄。
自分で思って自分で虚しくなった。
「試すような事をしてすまなかったね、ケリア」
た、試してたのかよこの人…。
「なんでそんなこと…」
俺ってそんなに信用ないのか?
もしくは頼りない?
まぁ、1年も音信不通になれば試したくもなるか…。
「試すと言っても、聞き出そうとしていたのは事実だ。マックがギャレンシア皇女と結婚したことで、国家と密な関係になったからね。しかしそれとこれとは話が別だ」
「べ、別…?」
「いくら国家と密な関係であったとしても、ケリアが弟であることの方が何十倍も大切だということだ」
本気で泣きそうになった。
俺は人に恵まれてるよ、どうしようもなく。
カスティーダから殻の正体を聞いたのは、ウィーグルス兄さんが帰って少ししてからだった。
「聖獣の中で唯一人の言葉を操れる“シーサル”、人目につかない場所に卵があるから、あまり人には気付かれない。何かの聖獣とくっついていることが多い」
ハツカネズミの説明はそんなもんで十分だった。
ハツカネズミの正体を知りたいんじゃない。
「どこにいるとか、分かった?」
カスティーダは一度ピーナに視線を向けてから、また俺を見つめた。
2人で俺に言うかどうか迷ったのかもしれない。
「案外遠くない場所だった」
「遠くない場所って?」
カスティーダはふぅと息を吐いた。
言うのをためらっているらしい。
それを見兼ねてイライラするのは俺の横にいるピーナで、なんのためらいもなく言った。
「シュバート一家の本家」
またかぁー!!
またシュバート一家なのかー!!
どんな因果関係だよ!
なんだまったく!
お別れどころかすぐに再開きそうだね、この展開!
「なんでまたシュバート一家…」
「さぁね。なんか呪われてるんじゃない?」
さらっと言ってくれるね…。
俺も同じこと思ったけど。
「それでだな、お前シュバート一家に世話になってたんだろ?」
「あ、まぁ…、うん…」
ウィーグルス兄さんとの会話でばれているので、否定するのはやめた。
それでも言いにくことに変わりはないけど。
「その…、なんだ。理由は分からんが、シュバート一家の本家がヤバイことになってるらしい」
「ヤバイことって?」
カスティーダは自分の頭をぐしゃぐしゃっとかき乱した。
この動作ってストレス溜まりましたみたいな行動じゃなかろうか。
その表情は渋く、眉間に皺が刻まれている。
「ヤバイのは、ヤバイんだよ…」
「だからヤバイってどうヤバイの?」
カスティーダは口の中でごもごもと「だからだな…」とか「その…」とか話を先に進めようとはしない。
でやっぱりそれにイライラしてしまうのが横にいらっしゃるピーナさま。
ちっとはしたない舌打ちを部屋中に響かせた。
「聖獣からの猛攻撃を受けてるらしいわ」
「えっ?」
聖獣からの猛攻撃?
シュバート一家の本家が?
「実はね、ケリアが帰ってきてすぐぐらいから聖獣の異変が始まったのよ。この聖研にいるいつも大人しい聖獣も狂ったみたいに暴れ出して、聖研はてんてこまい状態だったわけ」
「野生の聖獣たちも暴走にも似たようなことを始めたらしい。人に危害を加えることのなかった聖獣たちが人を襲い、町を焼き、そしてシュバート一家の本家を目指している」
俺は半信半疑で2人の言っていることを聞いていた。
今まで見てきた聖獣といえばソラだったし、あのぐーたらのソラが一番の印象である。
それが暴走と言われても、半ば信じられないことだった。
「聖獣レーダーには方々からシュバート一家の本家へと向かう聖獣が確認されてる。そこで…」
カスティーダは言葉を切り、ピーナを見た。
その視線を受けたピーナは、いつものように俺を見つめた。
「本家は聖獣からの攻撃で半壊状態、シュバート一家の人間がどうなったかも分からない」
「そんな…。嘘だろ!?なんでシュバート一家が…!」
「恐らく、そこに聖域があると考えられる。それでだな…」
まだなんかあるの!?
また俺にとっての不幸到来か!?
「そのシュバート一家猛攻撃の中心になっている聖獣が、ソラらしい」
あぁ、もう…。
そんなんありえないじゃん。
何やってんだよバカソラ!
ソラがシュバート一家を攻撃するなんてありえない。
親である俺が言ってんだ。
ありえない!
「シュバート一家、行く」
その単語だけで2人には通じたようで、その夜、俺たち3人は聖研を抜け出し、シュバート一家の本家を目指した。
これが世界の災厄の第一歩だった。
投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。
言い訳はいろいろありますが、とにかく謝りたいです。
すいませんごめんなさい。
しかし、ちゃんと完結はさせたいのでそこら辺はご心配なく!
さて、次回は山場っぽいですね!
ソラは出てくるのでしょうか!?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。