28:聖獣様は行く
女の子というのは一般的に人間の子供を指すものだと思う。
そしてメスというのは一般的に動物を指すものだと思う。
ならば人間の言葉を話す聖獣は女の子?メス?
俺としてはどっちもしっくりこない。
しかし相手を傷付けないようにするならと、俺はハツカネズミに翼のそれに、
「女の子?」
と問い掛けた。
返事はなく、首をかしげられた。
一瞬でも悩んだことが恥ずかしかった。
ソラは最初こそ驚いていたものの、今では随分と落ち着いていた。
立ち直りが早いというか、適応能力が高いというか…。
うまく生きていると思う。
ハツカネズミの彼女(?)は、名前がないと言った。
産まれたばかりなんだから、まぁそうなんだろう。
しかし産まれたばかりなくせに喋るのはおかしい。
あまりに冷静にハツカネズミの彼女が話し掛けてくるので、俺もあっさりと冷静さを取り戻しつつあった。
「あなたですね?フェニアースの親というのは」
少女のような高い可愛らしい声だが、言葉は少女らしくなくはっきりしっかりしていた。
ミムアよりも小さい子供のような声なのに、ミムアよりも年上と話してる気分だ。
たった今誕生したばかりなのに…。
しかも話し方を聞く限り、どうやら怒っているらしい。
ハツカネズミなので表情がいまいち分からない。
「あ、はい。ケリアって言います」
なんで俺はこんなに腰が低いのだろう?
相手はハツカネズミなんだぞ!
まぁ若干ちょっと間違ってる部分はあるんだけど…。
ソラはきょとんとしながらハツカネズミを見つめている。
「やはりそうですか。まったく…」
ま、まったく…?
初対面でいきなりまったく?
俺は何かおかしなことをしましたか?
「あなたのせいで大変なことになってるんですよ?」
「大変なこと?」
俺のせいっていうのは、是非とも力一杯否定させて欲しい。
被害被ってるのは基本俺だから。
この1年にいろいろ考えさせられて、もうハゲるんじゃないかってぐらいに悩まれさたんだ。
それなのに俺のせい?
つうか、俺はハツカネズミに何かした覚えはないんですが…。
「フェニアースの親はわたくしがなるはずだったのですよ!」
………。
へっ?
フェニアースの親…、わたくしが…?
なるはずだったのです…。
親になる予定だった?
「あなたがフェニアースの卵をこの場から持ち出すから!全ての予定が、軸が!ズレてしまっているのですよ!」
卵を持ち出す。
軸がズレる。
1年前、拾ったソラの卵。
その時点で俺はソラの運命を変えてしまっていたのか。
いや、違う。
フェニアースとしての運命を、ソラに塗り替えてしまったと言った方が正しい気がする。
そうか。
最初から自分で全てを変えてしまっていたのか。
思わず笑ってしまった。
どーよ、この俺の間抜けさ加減。
無意識なのか。
全ては無意識から始まって無意識にねじ曲げていたのか。
はは、笑える。
そんな俺をソラは首をかしげて見ていた。
ハツカネズミはやっぱりよく分からない。
「軸を修正するの?」
半分わかり切ったことを聞いてみる。
自分なら狂わせなかったと暗に言っているハツカネズミならば、これからきっとそのような行動を取ると思うんだ。
こんな形で逃げ道を失うとは思わなかった。
1年あっただけマシととるか短かったととるか。
「修正します。幸いまだ修正圏内ですから」
圏内ってなんだ。
「フェニアース、あなたを今から“聖域”へとご案内します」
「せ、せいいき…?」
俺の知らない単語、知らない言葉。
しかしソラはぴくりと反応を示した。
え、なんでなんで?
ありえなくない?
俺が知らない言葉をソラが知っているはずがないじゃないか。
だってソラが産まれてから、離れたことなんてないんだから。
知っているはずがない。
おかしいだろ。
このハツカネズミに感化されちゃったのかな…。
「行きましょう」
「ぐぅ」
……ん?
今ソラ、返事した…?
ハツカネズミがくるりと背を向けて森を抜ける動作と同時に、ソラもよいしょと腰を持ち上げた。
「え…、ソラ?」
ちらっとソラは俺を振り返った。
可愛らしかった一年前の顔ではなく、成長したソラの顔がこちらを見つめている。
ソラは一度「ぐぅ」と鳴いて、鼻を俺の顔に寄せた。
首をよしよし撫でてやると今度は気持ちよさそうに「ぐぅ」と鳴く。
そしてソラは俺から離れていった。
何度も何度もソラの名を呼んだけれど、ソラはもうちらりとも振り返らなかった。
あ、ソラが俺の言うこと聞かなかったの、初めてかもしれないな。
ショックを受けた頭の片隅で、そんなことをぽつりと思った。
書いてて泣きたくなりました。
なんて文章力と想像力がないのでしょうね…。
言ってても始まりませんので、精一杯精進したいと思います。
見苦しいとは思いますが、気長にお付き合いしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。