25:聖獣様の本音
俺は何と戦えばいいのだろう?
世界の災厄を止めたいと言ったって、どう止めていいのかも分からないのに。
なのにソラは本能で分かるっていうのか?
親がいる意味。
千年前はいなかった親という存在。
何かを変えようとしてるんだ。
それが神でも悪魔でもなんでもいいんだよ。
俺が問題にしてるのはそこじゃないんだから。
ソラと世界を救いたい。
勇者とかそんな立派なものじゃない。
ただ死にたくないし死んで欲しくないと思うだけなんだよ。
完全に二日酔いした。
あんなに飲んだのは初めてだったから仕方ない。
頭はガンガンするし、吐き気は催すし、気分は最悪絶好調。
「大丈夫?ケリア」
シュバート一家の本家のある1室のベッドに、俺は無惨にも横たわっていた。
こんなことしてる場合じゃないのは分かってる。
重々承知しているんだ。
だけど昨日あれだけ泣き喚いたら何かがすとんと落ちてきて、やる気も何もかも削がれてしまった。
なんで俺ばっかりこんな悩まなきゃいけないんだ。
なんで俺みたいな凡人の肩に世界を押しつけるんだ。
「いつまでそーしてるんだー?聖獣様だって元気に飛び回ってるってーのに」
あぁ、そこにいるのはクリストファーか…。
ソラはというと、窓の向こうをバサバサ飛び回ってる姿を見つけた。
そういえば昨日はソラも飲酒してたっけ。
元気なもんだなぁ。
一番悩まなきゃいけないのはソラなはずなのに。
「…世界の災厄、止めにいかないわけ?」
ぽすっと音をたててクリストファーがベッドに座った。
このベッド広くてふかふかだ…。
シュバート一家って相当稼いでるみたいだ。
俺は遠くに見えるソラによってできた黒い点を見つめていた。
「もうどうでもいい。なるようになれって感じ」
本心だった。
何かを頑張ることもいい加減疲れたし。
クリストファーみたいに世界の災厄について調べてる人もいる訳だし、俺が1人で頑張る必要もないだろう。
クリストファーの方が頭良いし。
「なんだぁ?つい昨日までは俺様に突っ掛かってきてたくせに」
「イヤになったんだよ、頑張ることとか考えることとか」
親なのに何もできない自分が心底イヤになったんだ。
シュバート一家に乗り込んでみても何も変わらなかった。
聖獣様の親になったところで、俺はやはりただの凡人だ。
凡人は考え方もやり方もやっぱり凡人で、勇者とか救世主にはなれないみたいだ。
なれなくてもいい。
もういい。
「逃げるのか」
問いかけなのか分からないクリストファーの言い方だった。
うん、そうだね。
「それもありかも」
逃げたって変わらないのは十分承知してる。
でも昨日の晩に気付いたんだ。
俺には泣いて喚いて時を過ごすしかできないということに。
俺には世界どころかソラ一匹も救う力もない弱い奴だということに。
「カスティーダさんが心配してましたよ」
ぱたんと扉が開く音と共に部屋に入ってきたのは、すごく久しぶりの登場眼鏡の助手くんだった。
いつから本家にいたんだろう?
昨日はいた感じはしなかったけど…。
まぁ、どうでもいいか…。
「カスティーダさんだけじゃないですよ。あなたの新しいご家族も、強気な彼女さんも」
彼女?
誰のことか分かったけど分かりたくないので、何も答えずにおいた。
俺を支えてくれていたみんな。
一緒に悩んで考えて苦しんでくれたみんな。
みんなみんな、本当にごめん。
俺には無理です。
世界を救うなんてことはできません。
ソラを助けるなんてことはできません。
みんなの期待に答えることはできません。
ごめんなさい。
俺は逃げます。
弱虫な俺をどうか許してください。
また涙が溢れてきたので布団に潜り込んだ。
昨日散々見せた泣き顔だが、酔っているのと素面じゃ全然違う。
「いいじゃん、逃げたって」
くぐもったクリストファーの声が上からした。
その表情は分からない。
分かったのは真剣そうな口調というだけだった。
「責める奴がいるだろうし、責められたって文句言えないけどさ。でもイヤなら逃げちゃえばいいじゃん」
敵の言葉だ。
聞かなくてもいい。
耳を傾ける必要なんかない。
ない、のに…。
「いつか帰ってくるなら、今は逃げたっていいじゃん」
無性に泣きだしたい気分になった。
実際泣いたけど。
帰ってくるなら逃げたっていい。
その言葉に救われた気がした。
俺は逃げた。
今までの仲間と突き付けられた問題から。
これにて3章終わり。
とうとう暗い3章の終わりを迎えてしまいました。
コメディー要素はどこへいったのやら、シリアス強めでしたね、この章…。
次章はおそらく時間が少しあいたところから始まると思います。
聖獣様はどうなるのか、世界はどうなるのか、ケリアや他のみんなは…?
問題山積みな4章の予感です。
ここまで読んでいただき、皆様本当にありがとうございます。
ご意見・ご感想お待ちしております。