22:聖獣様に条件
おでこにソラの歯形がくっきりと浮かび上がっている。
申し訳なさ少々、ざまぁみろ感大半。
言葉の駆け引きはうまくいかない。
ならどうするか?
それはソラが教えてくれた。
結局俺たちに残された道は行動あるのみ!
クリストファーは「いててて…」と言いながら顔を歪めた。
ソラは俺の気持ちを察しての噛み付きだったようで、ある程度の加減はしたらしい。
でなきゃ今ごろ誰かさんの首がころんと転がってるところだよ。
さすがにそれは酷すぎるもんね…。
「ったく…。親なんだからちゃーんと躾けて貰わないと…」
お前がそれを言うか?
相変わらず立場がよく分からん。
今度こそは流されまいとして、俺はソラの背中に手を置きながらクリストファーを見下げた。
「教えてください」
クリストファーは下から俺を見上げてきた。
探るような鋭い目付き。
思わず後退りしたくなるような眼光だ。
ソラのおかげで辛うじてそれはしなずにすんだ。
そしてクリストファーはおもむろにため息を落とす。
「分かった。教えてやってもいい」
だからなんで上からなの?
もういちいち突っ込むのも面倒になってきたんだけど…。
次ソラに噛まれたって俺は知らないよ。
「ただし条件付き」
「条件?」
お前が出せる立場でもなかろうに…。
そんな俺の気持ちを表情で察してくれたようで、クリストファーは縛られてるにも関わらず肩をすくめた。
器用だな…。
「条件出さなきゃ平等じゃないじゃん?世界の災厄だし。それなりの見返りが欲しいのは当然だよねぇ?」
いちいちムカつく言い方を選んでいるとしか思えない。
シュバート一家ってそういう才能の持ち主の集団なのかも。
しかしこの人に絡むのも面倒だったので、俺は先を促した。
「条件って何?」
聞くと、クリストファーはニヤリと悪巧みでも考えていたような笑みをした。
なんだかすごくやられた感…。
「ある洞窟に俺様も連れてけって話」
「洞窟?」
また変な条件である。
クリストファーが変人だから今更気にしないけど。
「食い付き悪いなぁ」
「だって興味ないし…」
洞窟なんか全くこれっぽっちも興味はない。
あんなじめじめした暗いところ、興味が湧く人はそんなに多くないと思う。
コウモリとかキライだし…。
「世界の災厄の重要な鍵って言っても、興味出ないかなぁ?」
えっ?
と口に出さなかっただけまだマシだった。
そのクリストファーがムカつくぐらいニヤニヤしてたから。
この男は俺が驚くのをすごく楽しみにしてるらしい。
真面目な話をしてるのに、この男は…!
俺、こいつキライ。
そんな子供染みた考えが俺の頭の中を巡った。
いや、俺まだまだ子供だよな。
ソラという子供がいたって、やっぱり1人じゃ何もできない訳だし。
クリストファーは何も聞いてないのに、その洞窟についてペラペラ話し始めた。
この男のことだから何か思惑があるのだろうと思っていたけど、俺はまんまとそれに引っ掛かった。
その話を最後まで聞いてしまうと、俺には断ることができなくなってしまう。
その洞窟はシュバート一家の本家の地下にある。
シュバート一家の歴代の家長は、あえてそこを選んで本家を建てたらしい。
それは、世界の災厄でその洞窟が重要な鍵であったと気付いたからだ。
なぜ気付いたのかは分からない。
「たぶん偶然だと思うけどね」とクリストファーは言ったが、それよりも俺はシュバート一家の歴史の長いことに驚いた。
「世界の災厄が起きる前、その洞窟が異常なまでに光るんだと。よく知らないけどねー」
光る…。
ひかる?
「え、…それだけ?」
思わず口から零れた言葉を、クリストファーはムッとして俺を見つめた。
少しばかりしてやったりという気分だ。
でもそう言いたくもなるだろう。
ただ洞窟がピカピカするだけで災厄の鍵にされてしまうんだよ?
なんかの間違いかもしれないとは思わないのかな…。
「仕方ないでしょーが。そう言ってたのが千年前の家長なんだから。こっちだって半信半疑で言ってやってんだよ?」
言ってやってるって何!?
そんなに頑張って頼んだ覚えないけど!
この人ほんとに面倒くさい!
すごい絡みづらい!
「とーにーかーく!こんな状況なんだし、どんな情報も貴重でしょーよ。違う?」
う…、違わないけど…。
でもこれで「ハイ、分かりました」ってのこのこシュバート一家の本家に乗り込んでいくって、それはそれでおかしい気がする。
おかしいというより、まずいと思う。
シュバート一家は敵陣。
今ごろスルダニアルさんはじめ、王家の軍が分家を攻めているはずだ。
本家に行く行かないに関わらず、クリストファーを逃がす訳にはいかない。
それをシュバート一家の奴らに見せつけながら本家に乗り込むのか?
いやいや、とても危険だろう。
それで攻撃なんかされたらひとたまりもない。
いくらソラがいるって言ったって、相手はこのクリストファー。
なんだかんだで頭良いし、なぜか千年に一度の聖獣に詳しいらしいし。
俺がそう押し悩んでいると、クリストファーはにこりと微笑んだ。
「安心しろって。子分の奴らには手出しはさせないさ。俺様だってこの世界に住んでる人間の1人なんだし、災厄なんて起きたら商売どころじゃない訳だし?」
嘘か本当か。
それを知るにはクリストファーの情報が足りなさすぎた。
俺はまたソラに視線を移してみると、ソラは威嚇をやめてじっとクリストファーを見つめていた。
「嘘じゃないって!なんならこのグルグル巻きでも構わないしさぁ」
当たり前だ。
今更クリストファーみたいな変人の縄を解くヘマなんか俺だってしないわ。
でも…。
「本家まで、行こうソラ」
「ぐぅ」
ぽんぽん。
ソラの背中を叩くと、ソラは頼もしい限りに翼をばたつかせた。
うん。
やっぱり行動あるのみ、だよね。
洞窟とかファンタジーっぽいものを練りこんでみました。
さてはてどんな洞窟なんでしょうねぇ…^^
最後まで読んでいただきありがとうございました。