2:聖獣様はぐぅと鳴く
名前を付けた。
自分で言うのもなんだが、結構ナイスなネーミングだと思う。
“ソラ”
翼があるから、どこまでも羽ばたいていける自由な心を持っていて欲しい。
そんな気持ちを込めた。
親になったせいか、親心が産まれたようだ。
しかしその名前は聖研の輩に一蹴された。
「君は何を考えているんだね、ケリア!?」
はぁ…。
あんまり怒鳴ると死んでしまいそうだ。
もうかなりの歳っぽいし。
てかそんな怒ることでも…。
「君は何も分かっていないようだ!」
「す、すいません…?」
いまいち理由が分からないし、なんだかこの剣幕を見るとこちらが悪い気がするので、謝罪を述べておく。
ただ、あくまでとりあえず。
「フェニアースですぞ?千年に一度しか現れないあの聖獣様なんですぞ!?」
「いや、それはもう何回も…」
「分かってらっしゃらないから言ってるのです!」
「はい。すいません。黙って聞きます」
少し怖かった。
つまり、だ。
この聖研のおじいちゃん(ちなみに聖研では上の地位らしい)が言うことを簡単に言うと、
「普通の名前を付けるな」
ということだ。
思うことはまぁたくさんあるのだが、これ以上この人を死に近付ける必要はないだろう。
当の聖獣は俺の膝の上ですやすや寝ている。
気楽でいいなー。
いったい誰のせいでこうなったと思ってんだか…。
このっ。
「ぐぅ…」
うおっ!?
今ぐぅって鳴いた!
聖獣ってぐぅって鳴くんだ…。
「何しとんじゃおのれはぁ!」
……なんで初対面の輩におもいっきり殴られてんの?俺。
もうなんなの俺。
俺のこと全否定か。
「これからのケリア殿の処遇をお伝えします」
処遇…。
まるで悪いことをしたような言われ方だ。
悪いことなんてしてないのに…。
やっぱりこいつのせいなんだよなぁ。
「フェニアースはこちらで保護させていただきます」
あ、はい。
どーぞどーぞ。
そうしてください。
「俺は帰っていいんですよね?」
「とりあえずは」
とりあえず、ね…。
まぁとりあえずでもなんでもいい。
この堅苦しい聖研から出たいというのが今の切実な願いだ。
「という訳で、俺は帰ります」
俺はすやすや膝で眠る聖獣をおじいちゃんに渡した。
親心が産まれたせいで少し寂しい気もするが、仕方ない。
すると何かを察したのか、つついても起きなかった聖獣がぱっと目を覚ました。
「あ、起きた」
聖獣はおじいちゃんに抱えられたままキョロキョロと辺りを見渡す。
ぴた。
その金色の瞳が捉えたのは俺だ。
ぴたっという効果音がどこからが聞こえたんだけど。
聖獣と言えどもまだまだ子供だ。
ジタバタを始めた。
あ、あ…。
そんなにジタバタしたらおじいちゃんが…。
「ぐがぁ!」
痛い!
あれは痛い!
おじいちゃんのあごに聖獣のあの頭がミートした。
どう見ても聖獣の頭は石頭だよなぁ…。
助手かなんなのか、数人がおじいちゃんに駆け寄った。
攻撃を食らわした聖獣は、逃れた嬉しさからか、どことなく笑顔で俺に飛び付いてきた。
うーん…。
嫌な気はしないんだけど…。
でもなぁ。
「あのなぁ、聖獣様」
動物に向かって様付けってどうなんだ?
実の所“ソラ”と呼びたいのだが、聖研の輩の目があるのでそうもいかない。
「もうお別れなんだよ」
聖獣はきょとんと俺を見上げた。
なんて無垢で綺麗な目をしてるんだろう。
言いにくくなるじゃないか。
「俺とお前じゃ住む世界が違うんだよ。だからな、お前はここに残らなきゃいけない」
聖獣というのは人の言葉が分かるらしい。
産まれたばかりだが、俺が言っている意味を理解しているようだった。
だからってそんな悲しそうな顔をしないでよ…。
悪いことなんにもしてないんだよ?
これっぽっちもしてないんだよ?
なのになんでこんな罪悪感が後から後から…。
「で、でもな!ここの方が甲斐甲斐しく世話してもらえるし、ご飯もおいしいし!そ、それに…」
俺は口を閉じた。
子供は無垢だ。
それ故に残酷なんだろう。
苦しいぞ?
お前のその金色の目が苦しいぞ?
それでも突き放さなければならない俺はもう立派な親だと思う。
しかしいくらなんでも親離れは早すぎやしないか?
それも聖獣の運命なのか?
そうだとしたらかわいそうだな…。
「ごめんな。俺じゃどうしようもないんだよ」
俺は聖獣を無理矢理おじいちゃんの助手に押し付けた。
もちろん聖獣はジタバタしっ放しだが、そんなのは無視だ。
ここで振り返ったら俺の負けとなる。
いや、勝ち負けではないが、そんな気分だ。
あーあ…。
なんて後味が悪いんだろう。
あれから1週間が経過した。
未だ聖研から要請がないとこを見ると、なんとかなっているのだろう。
1週間たってやっと一息つけるようになった。
「まったく…。やれやれだ」
いやーな罪悪感しか残らなかったから。
もう会うこともないのだ。
早く忘れよう。
と言ってる側から窓ガラスが割れた。
「って、えぇ!?」
冷静に割れたとか考えてる場合じゃないぞ!?
なんだ!?
異変かっ!?
天変地異かっ!?
「ごふっ」
腹にすごい衝撃を受け、おもいっきり尻餅をついた。
爺ちゃん、婆ちゃん。
父さん、母さん。
今そっちに行くからね。
「ぐぅ!」
「………は?」
腹に翼の生えた狼が張りついているではありませんか。
すりすりと鼻を俺に押し付けている。
いやいやいやいや。
待て待て待て待て。
「おまっ……、えっ?」
ガラスを突き破ったのか?
それ以前に1人?
じゃなくて1匹?
「まさか…、脱走!?」
聖獣はぐぅぐぅと二回鳴いた。
それはもうなんとも無邪気な鳴き方だ。
やれやれだ。
さっきとは全く違う心境のやれやれ。
最後までありがとうございました。
まだ2話ですが、評価・感想お願いします。
こうして欲しいとかいう希望待ってます。