3章‐16:聖獣様の秘密事項
俺は世界征服を考えた。
ソラの強大な力を持ってすれば可能なことだ。
まず聖研を壊した。
ソラの全ての研究結果を消し去る必要があったのだ。
抵抗させないために。
お次は城を襲撃した。
これで国の軍事力は俺のものだ。
仕上げは国全てを火の海にした。
もう俺に逆らえる者はいない。
俺は自分の力で不幸を脱したのだ!
と、ここで世界征服はプツリと途切れた。
「ゆ、夢かよ…」
なんてリアルな夢なんだろう…。
とうとう俺も変人仲間入りかな…。
「夢ぇ?」
カスティーダは面倒くさそうな顔をした。
今さら隠せよとも言わないけど。
無駄だから。
ありえなくもない自分の夢が正夢にならないように、俺は夢の話をカスティーダにした。
最初は適当に聞き流すようにしていたが、徐々にその顔に変化を来していった。
珍しく真面目な顔をし、そして深刻そうな雰囲気だった。
「てな訳、なんだけど…」
そんなんだから俺の最後は尻窄み。
逆に慌てふためく俺。
「い、いやさっ。夢だからね?たかだか夢だからね?」
「………」
なんとか言ってー!
怖いからなんでもいいから言ってよー!
俺なんか変なこと言った!?
カスティーダはじっとソラを見つめ、そのソラはカスティーダを見返しながら首をひねった。
俺の内心もそんなかんじ。
「…ケリア、お前に知らされてないことがある」
「カスティーダ殿…!」
カスティーダを咎めるような声を上げたのは、ちょっと前から護衛してもらってる騎士団のスルダニアルさん。
居ることすっかり忘れてたよ。
気配消すのが半端なくお上手。
さっすがかの有名な騎士団だ。
スルダニアルさんの横にはもう1人の騎士団、リンクさんもいる。
リンクさんはスルダニアルさんよりも少し若そうに見えるが、実際同じぐらいの年齢らしい。
今はそんなのいいか。
スルダニアルさんもリンクさんも普段は空気の如く無表情を決め込んでいたが、今はすっかり崩れて厳しい顔つきをしている。
恐ろしや恐ろしや…。
まぁ今のこのピリピリした空気よりもマシなんだけど…。
「言ってはなりませんぞ、カスティーダ殿!それは国家に背く行為となりまする!」
スルダニアルさんが声を張り上げて言っているが、カスティーダはどこ吹く風。
怒ることもしょげることもせず、ただ淡々と受け答えた。
「国家に背く?とんでもない!むしろ国家のためを思って言おうとしてるつもりだけどな」
「何を今更!その話し合いはもう終わったこと!なぜ今になって蒸し返すようなことをいたすか!」
「あの話し合いは結局終わってないだろうが。お前ら国家が突っぱねたままで仕舞になったじゃねぇかよ」
「突っぱねたとは失敬な!むしろ突っぱねたのは聖研の方ではないか!」
………。
この言い合いは俺の前でするべきじゃない気がするんだけど…。
俺、聞いちゃまずくない?
俺に隠し事するかしないかの話し合いの事を、俺の前で蒸し返す方がおかしくない?
ねぇ、俺の存在分かってる?
俺のこと忘れてませんかー!?
「ったく…。これだから国家の奴はキライなんだ…」
と不機嫌そうに頭を掻くカスティーダ。
待て待て待て待て!
それってケンカ売ってんじゃん!
自覚あってやってんの!?それ!
質悪っ!!
「それはこっちの台詞!聖研の輩には前々から嫌気がしていたのだ!ここで成敗してくれる!」
シャキーン!
って剣を持ち出すなー!
しかも成敗ってお前!
江戸っ子か!
よくわかんないけど!
てか、国家と聖研って仲悪かったんだなぁ…。
知らなかった…。
「ぐぁ…!」
スルダニアルさんが剣を抜いたことでソラのスイッチが入ったらしい、スルダニアルさんを威嚇し始めた。
そろそろまずい展開になってきた。
黙って傍観してる場合じゃなさそうだ。
「そ、その辺でもう!やめてください!カスティーダも!ほら、ソラもビックリしてるし!ね!?」
俺の仲介が(珍しく)効いたようで、2人は渋々と言った様子で引き下がった。
スルダニアルさんが剣をしっかりと鞘に納めたのを確認してからやっと一息。
騎士団と言えども人の子ということか。
つうかリンクさんも仲介ぐらいしろよ。
どこまでも傍観者か。
俺はソラをよしよしと宥めてからカスティーダに向き直った。
「で…、俺に隠し事してるってことだよね…」
ギクリという顔をしたのはカスティーダだけではなかった。
俺には秘密事項だったらしい。
俺の存在を忘れてケンカ売り買いしてるからだ!
「それはソラに関係すること、だよね?」
カスティーダやスルダニアルさんも目を泳がせていることから、イエスなのだと解釈する。
なんだかんだで素直な奴らである。
しかも行動がそっくり。
ケンカするほどなんとやらってか。
「そうなんだとしたら、俺にも聞く権利があるよね?」
今日の俺は立場が強いぞ。
カスティーダが「うーんうーん」唸り、スルダニアルさんは「しまった!」という顔を隠しきれない様子でいる。
「教えてくれるよね、カスティーダにスルダニアルさん」
2人して「うっ」と声を漏らした。
勝った…!
これは確実に勝った!
3章が始まりましたー!
んー暗くならなかったですね!予定はやっぱり未定でした!
しかしきっとこの章で物語は動くと思います。
読んでいただきありがとうございました。