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14:聖獣様は休養中

命に別状はなかった。

倒れた要因としては流血ももちろんだが、力の使いすぎもあるのだという。

自分の容量以上の力を使い続け、容量不可で疲れを催したのだそうだ。

「こんなになるまで何やらせとんじゃー!!」

そんなこと言われたって!

で殴らないで!

グーやめて!!





あの後すぐにピーナが駆け付けてくれた。

どうやらあの拳銃の音は(元)俺の山の家まで響いていたらしい。

ピーナは実にてきぱきと行動してくれた。

俺の服を一枚ひっぺがし(あくまで自分の服でなく俺の服)、それをソラの患部に当てやった。

白いアヒルのロゴTはみるみる赤く染まっていく。

あれはとてもよろしい光景とは言い難かった。

白いアヒルのロゴTが赤いアヒルのロゴTになっていく速さ。

荒い息がソラの口から漏れ出る感触。

なんともはや…。

ピーナがいなかったら号泣してたかもしれない。

こんな時ばかりピーナに感謝するとは俺もなかなかいい奴とはいえない。


ソラを抱えて聖研まで行ったのだが、その行動はかなり注目を浴びた。

血を流す狼に羽の生えた黒い物体を泣きそうな顔で運ぶ青年。

逆に注目を浴びないと不思議な世界である。

そして聖研に着いて怒鳴られ叫ばれ殴られて…。

散々な目にあっているのは間違いない。

不幸だ。

今の俺は誰が見ても不幸な男だ。


ソラは救護室らしき場所に運ばれ、しばらく休養を取らせなければならなくなった。

その間俺は前に使っていた部屋に通された。

親としてはショックなもんだ。

ソラに守られ、結局守ったソラがぶっ倒れるなんて。

珍しく本気で気落ちした。

「なんだよ、飯食ってねぇじゃん」

カスティーダがいつもの様子でお盆を持ちながらやって来た。

そのお盆からは湯気が立ち込めているが、悲しきかな、食欲はちっとも沸いてこない。

テーブルの上にはすでに食事が置かれている。

それは今日の昼食に聖研側から出してくれたものだが、やはり食欲が出ずに手を付けなかった。

いや、付けられなかった。

食べたら吐きそうだと感じたから。

「食欲ない気持ちは分かるが、食わないとお前もぶっ倒れるぞ?」

表情からは伺えないが、それでも心配してくれているのは分かった。

申し訳なさはもちろんある。

しかし胃がそれを許してくれないのだからしょうがない。

「いや、もともと食が細い方だし。これぐらいなんともないよ」

「なくねぇだろ」

間髪入れずのカスティーダの言葉だった。

「えっ」と声を漏らす間もなく、カスティーダに胸ぐらを掴まれた。

男らしい姿形のカスティーダにそんなことをされたら、こんな状況なのに「ぐえ」と苦しい声が出た。

つくづくシリアス向きな性格じゃないよなぁ、俺って…。

直したい。

すっごく直したい、この性格。


「お前なケリア。俺はお前のそういう所が大っ嫌いだ」

「えぅ…?」

本当は「え…?」てな感じになる予定だったのだが、苦しかったから「ぅ」が付いた。

ちょっと力緩めて…。

死ぬ…!

「人が心配してやってんのにそれを無下するみたいに…!好意をありがたく受けることができねぇのか!」

「か、カスティーダ…。ぐるじ…」

「ソラが起きた時のこと考えてみろ!ご主人がそんな痩けてたらかわいそうだろうが!」

あ、意識飛びそう…。

カクン。

「え?お、おい、ケリア!?」

慌てるの遅くない…?


カスティーダの言いたいことはよく分かった。

言い訳染みた反論はそれなりにあったのだが、俺は一切口にしなかった。

聖研で唯一俺のことを「聖獣様の親」でなく「ケリア」として見てくれる人は貴重な存在だし、何よりも嬉しかった。

だから全てとは言わずとも、少しだけ食事に手を付けた。

半分も食べれなかったが吐かなかっただけマシか。


「いや…、悪かったな…」

今更ながらに謝罪を述べるカスティーダ。

俺は首を横に振った。

「いいよ、もう。カスティーダの気持ちは分かったから」

「………」

カスティーダはこほんと咳払いをした。

なんだなんだ?

お次はなんだ?

「ソラのことなんだけどよ…。どっかから情報が漏れたらしい」

あぁ、ふーん。

てな軽い感じで俺は頷いた。

というのも、それはそうだろうという思いがあったから。

聖研の人とか家族間とかで簡単に広まることだろうし。

「聖獣は珍しいからな。マニアの間じゃあ高く売れるんだ」

マニアねぇ…。

だからって千年に一度の聖獣様を狙わなくたっていいじゃないか。

おかげで偉い目にあったよ、まったく…。

「で、本題はこっからだ」

「本題?」

本題って?

今までの全部前置き?

長い前置きだな…。

「やっぱり千年に一度の聖獣様を大変な目に合わせるのは、普通に考えてまずいし、今回のことでシュバート一家の奴らにソラの存在がばれた訳だろ?」

うん。

「いくらソラが強大な力を持ってるにしても、やっぱりなるべく危険は回避したい」

うんうん。

「そこで、だ。ソラを誰かに護衛、あぁケリアもな、護衛して貰うという話し合いになった」

おまけでもなんでもいいけどさ。

そこは自分なりに乗り切ったし。

だけどわざわざ言わなくたっていいだろ!?

「そしたらある人物が名乗りを上げてくれた」

「ある人物?」

なんで溜めるんだろう?

と、そんな疑問はあっという間に消え去った。


「国王様」


うっわー…。

俺はどうやっても王家から逃れられないらしい。

そして不幸からも。

かわいそうだな、俺よ。


聖獣様は休養中のため今回はお休みです。

主人公の真面目さで勘弁してください。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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