10:聖獣様のライバル
また体重計が振り切れた。
「またかよっ!?前のを変えてから2週間だぞ!?」
ソラの成長は何人も適わない。
もう俺は半分諦めたよ。
でかくなるだけなってみろって感じ。
投げやりって言うのかなぁ、こういうの。
聖研のソラへの研究は、週に2回行われる。
しかしその研究は俺たちが出向くのではなく、聖研の方から来てくれるのだ。
そうなったのもこの家の権力のおかげ。
権力万々歳。
そしてその権力をいいことに、聖研の使いで来るのをカスティーダ指定にした。
やっぱそこはさ、おじいちゃんに来られてもいろいろと困るし。
カスティーダが一番気心知れてるし。
こんなんでも研究者だし。
研究自体は今までと変わりないやり方だから、まぁカスティーダでもいいや、みたいな聖研の考えが見て取れる。
「ケリア兄様!お茶をお持ちしましてよ?」
「あ、う、うん。あ、ありがとう…」
言わなくても分かってると思うけど、ここ貴族のお屋敷なんですよ。
その貴族の中でも上位の貴族、つまり貴族の中の貴族な訳ですよ。
だから、ね?
こういったことを屋敷の持ち主にやらせていいのか?
無論あり得ない光景でして。
俺がここに来てからはよく見る光景になっただけ。
それはミムアがどういう訳か俺を気に入ったからなんだけど…。
分からん。
さっぱり分からん。
しかもちゃっかり自分のまで持ってきてるし。
そんでソファーに座ってた俺の横にちゃっかり座って、でお決まりの通り擦り寄ってきた。
「私もいていいでしょ?ケリア兄様」
い、いやぁ、まぁ…。
断るアレもないんだけど…。
どうも落ち着かないと言いますか。
「…いつも思うが、ケリア、お前そんな趣味があったのか…」
「シャレになんないからマジでやめて」
不可抗力だからね?
望んで懐かれてる訳じゃないんだからね?
子供の扱い方なんか知らない俺がなんで懐かれるのか、自分でも分かんないんだよ?
その擦り寄ってきたミムアを良く思わないのが、俺の足元でお座りしてたソラ。
唸りこそしないが、人間でいう「ガン飛ばしてる」状態でミムアを睨んでいる。
しかし当のミムアはどこ吹く風。
結局気が気でないのは俺。
どこにいたって誰にだって振り回されっぱなしの俺。
そろそろ諦めモードのスイッチがオンになりそう。
「あれ?ソラのおやつがないみたいだけど」
ミムアが持ってきたお盆には、3人分のお茶と茶菓子。
いつもならソラのためのビーフジャーキーがあるはずなんだけど…。
「あ、忘れちゃったぁ」
………。
わざとだね。
わざと忘れたよね、ミムア。
棒読みだよ。
そして目が泳いでるよ。
やっぱり子供だから、嘘は付けないみたいだ。
うんうん。
そこは褒めるべきとこかも。
「ミムア。嘘はダメでしょ、嘘は。それにそんなことしたらソラがかわいそうだよ?」
「………」
そこで黙るか。
頑張れ!兄貴!
「ミムア」
「……ごめんなさい」
はい、よくできました。
って俺何やってんだ…。
なんでこんな馴染んでんだ!
くそぅ…。
ミムアがあまりにも庶民派すぎる…。
かわいそうだから本人には言わないけど。
「でも…」
でも!?
「私にそうさせてるのはソラよ!いっつもケリア兄様にくっついてて、ケリア兄様を独り占めしてるんだもん!私だってしたいのに!」
待て待て待て。
最後のは流しておくよ?
私だってってのは流しておくからね?
俺はソラとミムアのオモチャじゃないからな?
そして本気で待て!
ソラに手を出すな!
それに手を触れるな!
引っ掻かれるってマジで!
「ソラのばかぁ!」
「ぐぁぐぁ!」
ぽかぽか。
ってケンカを始めるなケンカを!
お前らはアレか。
俺を休ませる気は少しもないのか。
俺をノイローゼにさせたいのか。
「つうかなんか寒いな。暖炉の火つけろよ」
でお前も自由だな!
助けろよ!
少しは俺を助けようとしてくれよ!
本当にノイローゼになるわ!
そんで暖炉の火は自分でつけようとしろ!
なんでもかんでも俺が動くと思ってんな!
俺はお前のパシリか!
ブァー!!
………。
………。
………。
「い、今…、火、吹いたぞ?聖獣様…」
「ぐぅ!」
勝手に新技繰り出してんなー!!
でそれで暖炉に火つけたのかよ!
つうかやっぱ怪獣みたいだよね、ソラ。
「ぐぅ!」
「褒めてないっつうの」
ごめん。
一発グーで殴らせろ。
ソラの攻撃は“引っ掻き”と“火を吹く”ですかね。
今のとこ。
成長すれば成長するだけすごいことになるのかなぁ…。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。