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壊れかけのRadio

作者: 藤乃八舞

私が子供の頃はテレビや電話は一家に一台という時代でした。

正直、家族の各人の部屋にテレビとスマホがあるような時代になるとは想像もしていませんでした。


そんな私の幼少時代にはトランジスタラジオが若年層の主な娯楽の道具でした。

今ならばSNSや投稿サイト等で色々とな面白い楽しい情報が得られるように、当時の若者はラジオから様々な情報を仕入れていました。


親に「もう寝なさい!」と叱責された後で自分の布団に包まり、誕生日に買ってもらったラジオをこっそりと聞くのが何よりも楽しみでありました。


中学生になった年の夏の夜、ラジオを聴きながら宿題をしていると「真夏の夜の冷ややかな百物語」という番組の放送が始まりました。

シーズンイベント的な番組なのですが、怖い話が大好きな私は宿題をしている手を止めてラジオに聞き入りました。


「振り返るとそこには血だらけの女が立っていたのです!(キャー!)」

「言われた通りの墓場に到着し、後ろを見ると後部座席に座っていたはずの男性の姿はありませんでした(キャー!)」

といった風に最後に必ずキャー!という効果音が入る怪談特集に聴き入っていました。


毎晩、5~6話の怪談を100話になるまで語り続けるといった企画でしたので、その日からその時間にはラジオに釘付けになっていました。


32話か33話を聴いているときでした。

語り部の声が途切れ途切れとなりました。

電池の残量がが少なくなったなと思い新しい電池と交換しました。

ところが真新しい電池に交換しても語り部の声は途切れ途切れのままなのです。

興味のあるお題の怪談であったのですが、その日は渋々とラジオを消して就寝しました。

翌日の放送は途切れることもなく怪談を堪能することが出来ました。


65話か66話を聞いているときでした。

またもや語り部の声が途切れだしました。

電池は少し前に代えたので問題ないはずです。

電波状態かと思いラジオを持って部屋中をウロウロしましたが、やはり語り部の声は途切れます。

壊れかけてるのかなと思い、その日もラジオを消して就寝しました。


翌日、街の電気屋さんにラジオを持ちこんで修理をお願いしました。

ところが電気屋さんが言うにはどこも悪くないと言うのです。

しかし電池を代えても途切れ途切れになったのだから壊れかけてるんでしょ?と食い下がりました。

ラジオが若者の唯一の娯楽である事を知っている電気屋さんはもう一度しっかりと調べてくれました。

しかし、どこかが故障しているという事はありませんでした。


シーズンイベント的な番組も佳境を迎えつつある97話か98話を聴いているときでした。

またもや語り部の声が途切れ始めました。

電池を代えても途切れ途切れとなります。

諦めてラジオの電源を切ろうとした時に、途切れた語り部の声の合間にとても小さな声で「殺す」という声が聞こえました。

当然、途切れた語り部の声の合間のノイズがたまたまそう聞こえたと思いました。

しかし小さな「殺す」という声は何度も何度も聞こえてくるのです。

たまたまという頻度ではありませんでした。


「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」

小さな声だったのが段々と大きくなってきました。

その声はラジオから私に近づいてくるような感じでした。


99話が終わった時には「殺す」の声は私の目の前ではっきりと聞こえました。

そして100話目が始まると私を通り過ぎ、背中の部屋のドアに向かって移動して行きました。

その時の「殺す」は遠ざかるように少しづつ小さくなっていきました。


目に見えない何かが「殺す」といいながら私の部屋のドア付近にいるのです。

あまりの恐怖に野球部であった私はゆっくりと、できるだけ静かにバットを手にしました。


そして100話目が終わった時に、突如、私の部屋のドアが開いたのです。

得体のしれない「殺す」と言っていた何かが、得体のしれない何かを誘導したと思った私は無我夢中でドアの外に向かってバットを振り下ろし続けました。


静かになった事に気が付き、私はバットを振る手を止めました。

目の前には直ぐには母親と判らないぐらいにグチャグチャになった血まみれの死体が転がっていました。



壊れかけていたのはラジオではなく、私であったようです。


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