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第7話 潜入調査

「その……一応聞くんだが、レニオ……」


 悪代官ゴルコークの屋敷に向かう道の途中グリムナがレニオに問いかけた。現在は勇者一行の4人で拠点にしていた村からゴルコークの屋敷のある町、アンキリキリウムまで移動中である。ちなみに荷物のほとんどは体格の一番いいグリムナが運んでいる。


「こないださんざん『ホモ』『ホモ』言ってたし、やっぱりゴルコークって男……なんだよね? ワンチャン美しい妙齢の女性、ってことは……ないよね……?」


 一抹の望みを託したグリムナの問いかけに、レニオは無情にも答える。


「何が『ワンチャン』なのか分からないけど、ゴルコーク自身はこの目で見てきたから間違いなく男だよ。顎髭をたくわえたごっついおっさんだったよ?」


 その答えにグリムナは片手で顔を覆って天を仰いだ。この大陸にある国のほとんどがそうであるが、現在彼らのいるピアレスト王国は激しい男尊女卑の思想が残る国である。領主や代官が女性であることは、まずない。身分の高い、社会的な地位の高いものがほとんど男性、となると、やはり巨悪と言えるような者もほとんどが男、となるのだ。


 それはつまり、これからのグリムナの旅路で戦う相手、キスの相手はほとんどが男性、ということを表す。彼にとっては絶望である。


 別に女性ならいい、というわけではないのだが。だが……せめてこれから出てくる敵がすべて女性ならば、さらに言うならばなぜか若くてきれいな女性の悪役ばかりなら、オタクの妄想を弁当箱に詰めて綺麗にデコレーションしてラッピングしたような、そんな予定調和ありきの楽しい物語になる道も残されているのではないか、そう彼は考えたのだが、現実とは斯くも残酷なものである。


「それにしても、顎髭のごついおっさんか……」


 グリムナが鼻梁のあたりを押さえながら独り言ちていると先頭を歩くラーラマリアが全員に話しかけた。


「街が見えてきたわ。まずはここからの作戦を立てようか」


 そう言うと全員が円陣を描くように道の脇に陣取り、グリムナが手早く薪を集めて来ると、シルミラがそれに魔法で火をつけた。グリムナの持っていた荷物からレニオがポットを取り出すと、先に作ってあった簡易的な石を積んだかまどの上にのせて湯を沸かして、茶を入れた。


 どうやら簡単にお茶をとって休憩しながら作戦会議ということのようだ。


「まずは、『勇者』として町に入るか、それは隠すか、そこからね。シルミラはどう思う?」


 ラーラマリアがお茶を飲みながらシルミラに意見を求める。


「そりゃもちろん隠して入るしかないでしょう。話を聞く限りじゃそのゴルコークってちょっと有名な奴が来たからって悪事をやめるような奴じゃないんでしょう?」


 シルミラがそのままレニオの方に顔を向けて話を回す。


「まあ、そうだね。方法は二つに一つ。問答無用でゴルコークを殺害するか、動かぬ証拠を突き止めてやめさせるか、ね。まあ、前者だとただのテロリストになっちゃうから、勇者の身分は隠して、まずは証拠集めになるかな」


「なるべくなら手荒な真似はしたくないな。ゴルコークもそうだし、少なくとも彼の手下はただ命令に従っているだけだろう。証拠を集めるにしても、なるべく穏便に済ませたい」


 グリムナがそう発言すると、すぐさまシルミラがそれを却下した。


「あのねぇ、遊びに来てんじゃないのよ? 言ってきくような奴ならわざわざ勇者に調査依頼なんて出ないっての。そもそも戦うのは私たちなのよ? 回復術士ごときが意見しないでもらえる?」


 実を言うとグリムナのこのパーティーでの発言権はないに等しい。このパーティーの最大戦力はラーラマリアとシルミラであり、作戦立案は斥候のレニオが重要な役割を占める。その中で回復術士であるグリムナの立ち位置は微妙なのだ。


「その……無茶苦茶を承知の提案なんだが、今回の件、俺に任せてもらうわけには……」


 グリムナは出来れば暴力でのトラブル解決は避けたい。証拠をある程度集めたらあとは自分にまかせてもらえれば、今の自分なら平和的解決ができるのではないか、と考えたのだが、この提案は即座にラーラマリアに却下された。


「偉くなったものね。ろくに知恵も力もない奴が急に何を言ってるの? いい? あんたは戦闘で前線に立つことも作戦の矢面に立つことも許さないわ。戦う力のない回復術士なんだから。作戦中は一人で行動することもダメよ。トイレに行くときも必ず私に言うこと。さらわれたりしてみんなの足を引っ張ることが目に見えてるからね。それから夜九時を過ぎたらモノを食べてはだめよ。あと、寝る前には必ず歯磨きを……」


「落ち着いて、ラーラマリア。話が逸れてるわ」


 シルミラがラーラマリアをなだめる。


 さらにレニオが軌道修正しようと口を開く。


「と、とにかく! 最近勇者一行も名前が売れてきてるから4人一緒に行動するとばれちゃうと思うから、二人ずつのグループに分かれて行動しない? 偽名を使ってまずは町の中で情報収集をしようと思うんだ。とりあえず、ラーラマリアとシルミラ、それにアタシとグリムナの……」


「グリムナは私と組むの!!」


 レニオの言葉を遮ってラーラマリアが割って入ってきた。


「あ~、あの……そういうアレではなくてね……」

「どういうアレなんだ……」


 何かを取り繕おうとしているラーラマリアにグリムナが軽い突っ込みを入れる。


「あの…ほら、戦力の等分を考えたときにね、弱いグリムナと強い私が組んだ方がいいかな~って、いう説はどうかな? って……」

「その説でいいと思います」


 とりあえず話が進まないので勇者一行はシルミラとレニオ、ラーラマリアとグリムナの二組に分かれて街に潜入した。





「で、レニオ。まずはどうするつもり? ある程度の下調べはもうしてるんでしょう?」


 シルミラがレニオに並んで歩きながら話しかける。


「う~ん、連れ去られた人たちを屋敷で見かけたとしても『使用人として雇ってるだけだ』って主張されたら崩しようがないからね。噂になってる地下牢に監禁されてる人を発見できると一番いいんだけど……」


 シルミラはレニオのこの言葉をふんふんと聞いていたが、しばらく考え込んでから疑問をさしはさんだ。


「でもそれって屋敷の奥にまで入り込まないと見つけられないんじゃないの?」


 確かにそのとおりである。しかし当然そのことはレニオも考えている。


「ん~、だから出入りの業者かなんかに紛れ込んで侵入する方法を探したいんだよね……」


 レニオの言うことは尤もである。しかしこれはもはや調査というよりはすでに潜入になってしまっている。シルミラは少し眉間にしわを寄せながら難色を示した。


「なかなか危険な作戦になりそうね……レニオはともかく私はそんなスパイみたいなマネできる自信ないんだけど……ところで、ラーラマリア達にはどういった調査を頼んでるの?」


「シルミラにはアタシのサポートをお願いしたいわ。あの二人は屋敷への侵入、なんてできないだろうからね。とりあえず雑多に町で情報を集めてもらうことにしたよ。荒事になったら二人の出番だね」


 そういいながらレニオはシルミラに向かってウインクした。レニオはこういう仕草が本当に自然に出てくる。女の自分よりも女らしいレニオのしぐさにあきれてシルミラは軽くため息をついて少し天を仰いだ。


「それともう一つ。ラーラマリアは胸も大きいし、性格はともかく顔も美人だし目立つじゃん? もしあれがゴルコークの目にとまってお声がかかったりすれば、一気に解決かなぁ? とか」


「それは……いくら何でも楽天的すぎるというか……」


 レニオの冗談とも本気ともつかない作戦説明に、二人で笑いながら歩いていると、後ろから声をかけてくるものがいた。


「おい、お前ら……」

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