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第19話 ダークエルフ

「ふぅ……」


 あ、しまった、またため息ついてしまった。と、グリムナがちらりとヒッテの方を見る。ヒッテは何か不満そうな顔をしているが、特に文句を言ってくる様子はない。現在二人は昨日も泊まった宿にまた部屋をとって宿泊している。


 何をしているのか。途方に暮れているのだ。


 冒険者ギルドにも大した仕事はなく、伝手を頼ってゴルコークに仕事を斡旋してもらいに行ったがにべもなく断られてしまった。いや、ゴルコークからは「個人的な仕事でいいなら」と一つ仕事を頼まれそうになったが、さすがにそれをする気にはなれなかった。まだ自分の貞操を売るまでには落ちぶれてはいない。

 そもそも奴隷を養うために主人が貞操を売るのは何かおかしいような気がする。


 そんなことを考えていると部屋のドアがこんこん、と2回ノックされた。「2回はトイレのノックだってのにな……」とどこかで聞きかじったことを独り言で言いながらグリムナが返事をしてドアを開けると、部屋の外には銀髪の美しい女性が立っていた。


 しかし美しいものの、どうやらただの女性とは違う様だ。まず、妙に耳が長い。どうやらエルフのようだ。グリムナはエルフと出会うのは初めての事であり、その種族的特徴にもあまり詳しくはないが、普通のエルフとも違う気がする。肌が黒いのだ。もしやこれは噂に聞いたダークエルフというものではないか、と彼は考えた。そんな激レア種族が自分に何の用だろう、とも。


「あなたがグリムナね?」


 ダークエルフの女性が口を開いたが、その瞬間グリムナは何となく嫌な予感がした。いきなり自分宛で人が部屋まで訪ねてくるという事態に、この宿のセキュリティどうなってんだ、という気持ちももちろんあったが、まあ、こんな安宿にセキュリティを求めても仕方ない。

 彼が心配しているのはそんなことではない。ここ最近彼の名を知っていて、訪ねてくる人間というのにはある傾向があったからだ。


「あなたが稀代のホモと名高いグリムナでしょう? ぜひ私を仲間に……」


 バタン、と、グリムナはドアを閉めて鍵をかけ、そのまま部屋の奥に戻ってヒッテが着席しているテーブルの向かいに座った。


「誰ですか? 何の用でした?」

「知らん奴。宗教の勧誘だった」

「ご主人様の名前呼んでた気がしますけど? ていうか今も呼んでる気がしますけど?」


 ヒッテがドアの方を向くと、さっきのダークエルフだろう、ドアをドンドンと叩きながらグリムナの名前をしきりに呼んでいる声がする。


「気のせいだろう。それよりも今後の指針だな」


 無理やり話を進めようとするグリムナをヒッテが止める。


「今更なんですがご主人様はホモなんですか? 代官にも誘われてましたし、奴隷商の親父もさっきの女の人も言ってたし、有名なホモなんですか? ホモセレブ?」

「鼻セレブみたいな言い方をしないで。断じて言うが俺はホモではない」

「でも、昨日の夜もヒッテに手を出さなかったですし、まだ自覚ができてないってことですかね?」

「ホモなのを前提で話さないで。それよりも明日以降の話をするぞ」


 話をしながらもグリムナはちらり、とドアの方を見る。まだドンドンやっている。それを無視してグリムナは話を続ける。


「どうやらこの町でうだうだしていても割のいい仕事はなさそうだ。それに正直言うとこの町には会いたくない人がいるんだ」


 グリムナは少し悲しそうな表情を見せる。ラーラマリア達の事である。何か察したのか、ヒッテも悲しそうな表情で話しかけてきた。


「そう……ご主人様もいろいろあるんですね。その……喧嘩別れした、とかですか?」

「まあ、そんなところだな。幼馴染だったからな……俺は、これからも一生、仲良くやって行けるもんだと思ってたんだがな……」


 グリムナは少し天井の方を見てラーラマリアの顔を思い出す。股は緩かったが思えば人生のほとんどを一緒に過ごした幼馴染だった。レニオとシルミラもそうだ。お互い明日をも知れぬ冒険者、もしかしたらこれが今生の別れとなるかもしれないのだ。最後が喧嘩別れになってしまった事に一抹の寂しさを覚えていた。


「ヒッテには、友達なんていないから分かりませんけど、友達と仲直りするには、自分の気持ちを正直に打ち明けることだと思いますよ」

「自分の、気持ちか……」


 言われてみるとグリムナは彼女たちに対する自分の気持ちが何だったのか、あのパーティーの関係性が何だったのか、少しわからなくなっていた。ただ、居心地は悪いながらも、自分の居場所は、というと、やはりあそこだったような気がする。


 ヒッテは少し心配そうな表情でグリムナにさらに話しかけてきた。どうやらこの少女もただの煽りカスではなかったようだ。


「自分の正直な気持ちを打ち明けてみたらどうですか? たとえ男同士でも、結婚できる国とかあるかもしれませんし」

「お前はどうあっても俺をホモってことにしたいのか」


 訂正。ただの煽りカスであった。


「北東の方角にターヤ王国ってのがあってだな……」


「その国は男同士でも結婚出来るんですか?」


 もうこの女に何言っても無駄だと思ってグリムナは無視して話を続ける。


「そこの王族にだな、ちょっと伝手がある」

「またですか。ご主人様の伝手は信用できないんですけど。」

「とにかくだ。道すがら何かいい仕事があればそれを受けるし、当面の目標としてターヤ王国を目指すぞ」


 やはり出てきたのは行き当たりばったりの出たとこ勝負だったか、とヒッテは少しうんざりしたような表情を見せて言った。


「そんなに簡単に仕事が見つかったら職安は潰れますよ……」

「え……? 職安って潰れることあるの?」


 あるわけがない

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