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第160話 トロールの仲間

「わたしは、この町で『お仲間』を増やそうと思ってたのよぉ……」


 『お仲間』……またも不穏な言葉である。グリムナがそれについて問い詰めるとリヴフェイダーは眉根にしわを寄せ、少し涙目になりながらも話し始めた。グリムナは美しい女性の見せたそのしぐさに思わず罪悪感を感じてしまったが、それでも問い詰めることはやめない。落ち着け、この女は以前に自分を食おうとした化け物だ、そう自分に言い聞かせながら、彼女の話を聞いた。


 彼女が言うには最初にこの町に来たのは本当に暇だからパレードを見に来ただけだったという。エルフと同様トロールも何百年も生きる種族らしく、こんなことくらいしか楽しみがないのだそうだ。だから彼女は以前にも気まぐれに人間の友達になろうとしてみたり、山賊のボスになってみたりと大して得にもならないことに精を出していたのだ。

 だが、この町の人間と街並みをつぶさに観察していくにつれ、だんだんとこの町の人間が哀れに思えてきたという。


 男どもは毎日毎日日が暮れるまで働かされ、ぼろ雑巾のように汚れ、くたびれ、それでも手元に残るのはわずかな金だけ、しかし金が残ればまだいい方で、ほとんどの人は借金を重ねながら生活をしている。未来に何の希望もなく、『生きている』というよりはただ『死んでいないだけ』と言った方がより正確だという。

 女どもの主な職業は娼婦。この町を支配する『持つ者』、それはほとんどの場合三大マフィアのどれかに属しているが、そいつらの慰み者になり続け、それでも男と同様手元に残るのはわずかな金だけ。やがて性病にかかり、鼻が腐り落ち、脳まで侵され、もはや自分が何者なのかもわからなくなり、ゾンビの如くなって死んでいく。


 そんな彼らの唯一の心の拠り所は酒と麻薬。


 こんなところでもやはり出てくるのはマフィアである。労働者たちは手元に残ったわずかな金も、酒と麻薬に費やされ、それは全てマフィアの懐に帰っていく。ウェンデントートとの交易や彼らの資源を使っての加工品の生産を住民にさせることで国全体では潤っているものの、その恩恵を受けているのは政府高官と三大マフィアだけ。国民はみな奴隷同然、ステップ地方に暮らす遊牧民の方がよほど豊かで穏やかな暮らしをしているのがこの国の現実である。


「悲しい現実よねぇ……民が国を作り、民のための政治を行う共和国政治……その結果が北方の王政国家よりもはるかに過酷だなんて。『法律』と『平和』でガチガチに縛られちゃうと、ひっくり返しようのない、暴力の介入する余地のない富の固定が待っているのねぇ……」


 この話を聞いてグリムナは沈痛な面持ちとなった。それは、程度の差こそあれ、実を言うとオクタストリウム共和国だけでなく、この大陸全体で起こっていることだからだ。以前ベアリスに会った時、彼女は「どうせ金のない生活をするなら町よりも山で暮らした方がよほど豊かに暮らせる」と言っていた。事実その通りなのだった。

 だがグリムナはそれだけでは納得できなかった。素直に疑問に感じたことを彼女に尋ねる。


「今の話と、『お仲間を増やす』ってことは直接は繋がらないだろう、お前はこの町で一体何をしたんだ?」


「んもぅ、せっかちねぇ……最後まで話を聞きなさいよぉ……」


 なんだかノリノリでネカマをやっているおっさんを見ているような気持になってくるが、リヴフェイダーが言うには結局この町で苦しんでいる住人が見ていられなくなって、彼らのうちの何人かに、その力を分け与えたのだという。グリムナは驚いて彼女に聞き返す。


「力を分け与える? そんなことができるのか? それをやるといったいどうなるんだ!?」


「それはえっとぉ……滋養強壮効果があったりぃ、持続力と回復力の増強とかぁ……」


「そんな赤マムシドリンク程度の効果でトロールの仲間になんかなるはずないだろう! ごまかすな!!」


 グリムナが少し怒ったような表情でリヴフェイダーの肩を強くつかみながらそう言った。


「ちょ、ちょっと痛いわよぉ……言うから手を放して。……あたしはあの子達に魔力を注いであげたの……もしこれから彼らが何かを望むならその時に力を発揮できるように、って」


「魔力って、トロールの力をか……そんなことをして、力をもらった人間はどうなるんだ?」


「それは分からないわぁ……ケースバイケースね。さっき言ったみたいに勃〇力の増強程度にしかならないかもしれないし、『望む力』が強くて、さらに適応力が高ければ、もしかしたらトロールになれるかも……」


 なんと、彼女が言うには条件さえそろえば人間がトロールに変化することがあるのだという。虐げられている住民たちがトロールに変化して反乱を起こしたりすればこの国はおそらくひっくり返るだろう。一瞬グリムナは彼女を咎めようとしたが、やめた。多くの人の犠牲の上に成り立っているこの国が本当に民に必要なものなのかどうか、それが分からなくなっていたからだ。


「さっき『どこかで見たかもしれない』ってヤーンのことを言ってたよな? もしかして、ヤーンにその『トロールの力』を分け与えたのか?」


「そう……だったかも、しれない……正直、良く覚えてないわぁ……でも、ちょっと見覚えのある顔なのよねぇ」


 一撃で人間をなぎ倒し、切断された腕を即座に繋ぎなおし、何者にでも変身できる強大なトロールの力、そんなものを善意からだとしてもスナック感覚でそうポンポン渡されたら正直言ってたまったものではない。

 グリムナは彼女に人間相手に簡単に力を分け与えないでくれ、と伝えてから、重ねてヤーンを見つけたら教えてほしい、とお願いした。


 リヴフェイダーはさっき開けた窓の枠に足をかけ、グリムナの方を振り返りながら答える。


「もちろん、あなたはあたしの命の恩人だものぉ……見つけたら絶対教えてあげるわぁ」


 そう言ってリヴフェイダーは彼の方に投げキッスをしてから窓から飛び降りて、夜の喧騒の奥に消えていった。通常ならばこんな治安の悪い街を夜中にドレスを着た美女が一人で歩くなど自殺行為ではあるが、まあ彼女の場合はその心配は必要あるまい。むしろ下手に襲えば逆に彼女の『エサ』となる可能性の方が高い。


「あんまり成果がなかったですね、ご主人様……」


「まあ、そうだな……まだでも初日だしな」


「急いては事を仕損じる。まだ一日目でそこまで焦る必要もあるまい。それよりもこの町に確実にヤーンがいることが分かったのだ。生きてこの町にいる……それが分かっただけでも僥倖ではないか」


 話の中、それまで姿を消していたバッソーが急に戻ってきた。全員が、そのイカ臭い体臭に嫌悪感を示した。

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