表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/440

第146話 アナル開発事業団

「手桶を」


 ゴルコークがそう声をかけると、ヒメネス枢機卿達と一緒に入ってきた男達のうち一人が水を入れた手桶を守ってきた。ゴルコークはそれにフィーからもらった小瓶の中身の粉をひとつまみ入れてかき混ぜると、ほんの数秒のうちに小さい手桶の水はローションへと変わった。


「ふむ……この粘りなら、よいでしょう」


 努めて冷静な口調で話してはいるものの、にやつきを抑え切れていない表情でゴルコークがつぶやく。フィーとバッソーもニヤニヤと笑みを見せている。ただ一人、グリムナだけが涙を流していた。


「もういやだ……なんで俺ばっかりこんな目に遭うの……助けて……ヒッテ……」


 いい年した大の大人が証言台にくくりつけられて、ケツの穴丸出しで泣きながら12歳の少女に助けを求めた。確かに彼の身には辛いことばかり起こっているような気がしないでもないが、しかしそれも一部の特殊な性癖の人にとってはむしろご褒美かもしれない。

 公衆の面前で辱められる事に異常な興奮を覚える者も世の中にはいる。いや、話がそれたがそういうことではなく、物事を主観的に捕らえるのではなく、第三者的に俯瞰して見て、心を平静に保つことが肝要なのだ。尤も、第三者の目で見ても証言台に括り付けられてケツ丸出しでアナルを鑑賞される男など見たことも聞いたこともないが。

 そもそも彼自身多くの男のケツの穴に指を突っ込んできたのだから、ある意味では因果応報とも言えよう。


「ご主人様、がんばってください。これもご主人様の無実を証明するためです。ヒッテは応援しています」

「応援とかじゃなくてぇ~!!」


 どうやらヒッテも静観の構えのようである。


「が、がんばれ~……」


 そのとき、小さい声が聞こえた。それはレニオの声であったが、瞬く間に法廷の中に伝播するように皆が、大声ではないものの、合唱となって鳴り響いた。


「がんばれ……がんばれ!」


 ゴルコーク以外の皆が声を一つにしてそう囁いている。あのメザンザでさえそうなのだ。まさに、敵味方の枠を越えて、皆の心が一つになった瞬間であった。今その空間に、敵も味方も無く、身分の違いも無く、そして男女の違いさえもなく、ただただ一つになってグリムナのアナルを応援しているのだ。


 この大陸では有史以来、ずっと戦乱の世が続いてきた。戦がないとき、それは竜が現れて人類が滅亡に瀕したときだけであった。つまり、共通の敵が現れて自分が本当に危険になったときにしか力を合わせることが出来なかったのだ。


 だが、このとき、間違いなく小さな空間ではあったものの、皆の心が一つになっていた。グリムナのアナルが皆の心を一つにまとめ上げたのだ。


 グリムナは目を閉じ、そしてやはり涙を流し続けた。


 ずにゅる


「ひぐっ!?」


 グリムナは位置関係から当然それを目にすることは出来なかったが、何をされたのかは感覚で分かった。ゴルコークの野太い指が彼の禁足地に侵入してきたのだ。

 すさまじい異物感を感じ、全力で括約筋を活躍させるグリムナであったが抵抗むなしく、指は第2間接あたりまで飲み込まれてしまった。やはり『ホモのスペシャリスト』の名は伊達ではなかった。グリムナの抵抗など彼のテクニックの前では児戯にも等しい。


「む……」


 ゴルコークはゴルコークでその感触から何かを感じ取ったようである。フィーとアムネスティは一番近い位置でかぶりつきでそれを凝視している。


「う、うああぁ……」


 グリムナが泣きながら小さいうめき声を上げる。


「この締まり、抵抗感……やはりアナリストのものではないように感じるな……」


 答えがでたのか、ゴルコークがぼそっと独り言をつぶやくが彼はそのまま指でグリムナのアスタリスクをいじり続ける。どうやらある程度目星はついてきたが、まだ決め手に欠ける、といったところのようだ。



  私たちは神の子 この腐敗した世界に 落とされた


  地は苦しみで満ち 男共は争う こんなもののために 生まれてきたんじゃない



「ヒッテ……」


「はい?」


「なぜ歌を……?」


 涙を流しながらグリムナが問いかける。ヒッテは、グリムナの左手を両手で握りながら、励ますように歌っていた。


「気が……紛れるかと思って……」


 グリムナの後方ではまだねちょねちょと音がしている。


「………………」


「……そう……」


「やめた方がいいですか?」


「……続けて……」



  月が照らす丘に 白い花と 骸が見える


  神はこの世界におられるのか


  暗闇に手が差し伸べられても 私には触れない


  神はこの世界におられるのか



 ヒッテの歌声により、法廷の場は、何か神聖な儀式でもしているかのような、荘厳な雰囲気が漂っていた。実際には青年が台にくくりつけられてそのケツの穴をホモのおっさんがいじっているだけなのだが。見るものが見れば、涙を流しながらうつ伏せで堪え続けるその姿は、まるでウミガメの産卵のような神聖な時の流れを想起させる。


「ああああああああ! おかあさん! おかあさあああああぁぁん!!」


 グリムナの絶叫が法廷にこだますると、ちゅぽんっという音と共にゴルコークの指が引き抜かれた。


「ふぅ、確認は済んだ。早くその見苦しいものをしまってくれ」


 しこたまいじり回したあげく「見苦しいもの」と表現されたさんざんな目にあったグリムナのアナルであったが、ヒメネス達は急いでグリムナの拘束を解いてからズボンをあげた。グリムナはその間糸の切れた操り人形のように完全に脱力した状態であった。


「うう……汚されちゃった……」

「ご主人様、しっかりしてください」


 グリムナはヒッテに肩を貸してもらって、やっと被告席にひょこひょことした足取りで戻っていった。ゴルコークは「ふぅ」と一息ついてからハンカチで指をゴシゴシと拭いている。


「して、代官殿、結果はどうか?」


 ヒメネス枢機卿が問いかけると、ゴルコークは残念そうな表情で答えた。


「残念ながら、彼はシロのようだ……」


 シロ……シロとはどういうことであろうか。この場合シロがホモなのか、それともクロがホモなのかいまいち判然としない。更に言うなら『残念ながら』ということは何を表しているのだろうか。ヒメネス達は首を傾げる。

 「残念ながら彼は有罪」ということなのか、それともホモ(実際にはバイだが)としての観点で「残念ながら彼は仲間ではない」という意味の『残念』なのだろうか。その真意が分からない。


 ツッコミ役が一人いなくなるだけでこうまで事態が膠着するのだ。


「分かりにくいわよ! ホモじゃないってことなの?」


 脱力しているグリムナに代わってレニオが問いかけるとゴルコークはやっと気づいたのか説明を始めた。


「おおすまん、分かりづらかったか……確認して分かったことだが、彼の前立腺周りは全く開発されていない。アナル開発事業団の手が全く入っていない未開拓の地だ。その証拠に……」


「あっ、詳しい説明はいいです」


 フィーは詳しく聞きたがっていたようであるが、ヒッテがそれを止めた。英断であると言えよう。誰もそんなホモの細かいところの話など聞きたくはないのだ。「むぅ」とメザンザがうなる。


「じゃあ、全ての疑いは晴れたってことで……いいんだよな……?」


 グリムナが力を振り絞ってそう尋ねると、ゴルコークはちらりとヒメネス枢機卿の方を見た。ヒメネスは少し困った表情をしていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「仕方あるまい。プロのアナリストのお墨付きだ……グリムナ、お前の疑いは……」

「晴れてないわよ!!」


 ヒメネスの無罪宣言に言葉をかぶせてきたのは、フィーであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] がんばれコールに吹いてしまった悔しい…!! グリムナたん汚されちゃった(´;ω;`) もう怖いものなしですね! 回を追うごとにレニオへの好感度が上がります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ