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第135話 面会

 メルエルテはニヤリ、と笑って席に着いた。


 フィーの母親、世界樹の守り人という重責を担う、前回の竜の惨禍の時から生きているという長寿のエルフ、そして、アムネスティの言っていた今回の『グリムナロリコン疑惑』の通報者である。


「いけないわねぇ、あんな小さい子に手を出しちゃうなんて。ロリコンに人権はないわよ?」


 余裕の表情でそう言うメルエルテにグリムナは怒りに顔を歪ませる。


「アンタが根も葉もない噂を流すもんだからこっちは大変なことになってるぜ。てっきりエルフは俗世間に関わりはないと思ってたのに、やってくれたな」


「ま、そこはある人物の伝手を使ってね」


 『ある人物』とは聖騎士ブロッズ・ベプトの事である。今回の絵図を描いたのは恐らくこの男だが一切表には出てこない。彼はフィー達に『弱み』を握られている(お漏らしの件)し、メザンザにグリムナを引き渡すところまでは完了したのでこれ以上絡んで、失敗した時に難癖をつけられたくないので引っ込んでいるのである。


 しばらく呆気に取られたまま立ち尽くしていたグリムナであったが、テーブルを挟んでメルエルテの反対側に着席するとメルエルテはどんっとテーブルを叩いた。


「あんたが大人しく冒険を諦めて、フィーと一緒になって世界樹の守り人をしてくれるっていうなら、こちらにも考えはあるわ……」


 グリムナはその申し出を受けるつもりはないのだが、一応考えとは何かを聞いた。アムネスティをはじめとする一般人はどうやらエルフを大変神聖視しているということは今回の事でよく分かった。確かに彼もフィーに出会うまではエルフなど物語の中でしかあったことがなく、なんとなく神聖で、高潔なものであるような感覚はあった。


 まあ、だからこそフィーやメルエルテに会って大変に幻滅したことも事実なのではあるが。


 しかしだからと言ってまさか容疑者として裁判まで受けている者を突然無罪放免になどはできないだろう。メルエルテは言葉を続ける。


「腕の立つ弁護士をつけてあげるわ。エルフ弁護5段の段位を持つ実力者よ。彼にかかれば黒いカラスも白くなる。この世に曲げられない事実はないわ!」


 どうやらエルフの世界では弁護士は段位制らしい。しかしグリムナはこの申し出を断る。


「そもそも、俺は無実です。それに、事の発端の通報者が自らの要求を通すために被疑者に取引を持ち掛けるなんてただのマッチポンプだ。俺は絶対にそんな卑怯な手には屈しない」


「それに、確かアムネスティが言うにはフィーも人間の寿命に直すと6歳くらいだからロリコンだ、って言ってたぞ。結局俺とフィーが結ばれる目なんてないんだよ!」


 しかしグリムナのこの言葉にもメルエルテは余裕の表情を崩さない。にやりと笑いながらグリムナに語り掛ける。


「あらそうなの? でも関係ないわ。ヒューマン共の浅知恵で作られた法律なんていくらでも曲げさせればいいのよ。私達エルフはヒューマン如きの法の縛りなどうけないわ……」


 しかしグリムナは首を横に振り、それ以上メルエルテの申し出を受け入れる事は一切しなかった。気の弱い彼ではあるものの、彼には彼の矜持があるのだ。交渉が決裂に終わると、メルエルテは立ち上がり部屋を出て行った。最後に捨て台詞を残して。


「せいぜい足掻くことね。裁判は傍聴させてもらうわ……」


 憎々しい表情でそのセリフを聞き終えるとグリムナも立ち上がり、部屋を出ようとしたが……


「すいません、まだ面会があります。次で最後ですから……」


 またも衛兵に止められた。


「また? なんかおかしくない? この裁判所俺しか拘留者いないの? ちょっと休憩挟まない?」


 反論するグリムナであったが衛兵に押しとどめられて部屋に残り、再度席に着く。しばらくするとガチャリとドアが開いた。どいつもこいつもノックすらしない。容疑者だと思って下に見てやがるな、とグリムナは少し苛ついてきた。


「来ちゃった……」


 ドアのフチからひょこっと顔をのぞかせたのはアムネスティ騎士団長であった。グリムナの額に血管が浮き出る。イライラが最高潮に達してきている。朝から通報者の娘、通報者、逮捕者と今回の騒動の台風の目が続々と彼の元を訪れ、無神経な言葉を投げかけていく。


「ごめんね、取り調べで疲れてるかも、と思ったけど、どうしても会わずにはいられなくって……」


 アムネスティは席には座らずにグリムナの横に立って頬を赤らめながら何やら話しているが、正直グリムナにはその内容は一切入ってこなかった。自らをかかる事態に陥れる羽目となった元凶の三人が味方面して連続して訪ねてきているのだからそうなるのも仕方ない。


「それでね、グリムナが助かる方法を考えたんだけど……そのぅ……例えばね、ホラ、グリムナがロリコンじゃないって証明されれば全ては解決なわけじゃない!」


「……それで?」


 生気のない瞳でグリムナが返す。アムネスティは思ったような答えが返ってこなかったのか、あたふたとした様子を見せるが、しかしそれでも言葉を続ける。


「あ、あの~、ほら、たとえば子供どころか、年上の女の人の恋人がいると分かれば疑いはすぐ晴れるでしょうし……とっ年上の人と……結婚……しちゃう、とか……」


 耳まで顔を真っ赤にして、最後は消え入りそうなほど小さい声でアムネスティが話す。しかしグリムナの鈍感力をナメてはいけない。グリムナはアムネスティが何が言いたいのかわからず、おまけに発言の内容もイマイチ聞き取れず、不機嫌そうな表情で聞き返す。


「えぇ? 聞こえない」


 アムネスティは一層取り乱し、顔を真っ赤にしたままボソボソと話す。


「だっ……だからそのぅ……例えば、グリムナと私がぁ……その……けっ、結婚する、とか……」

「あぁ!? お前、ふざけるなよ!! 誰のせいでこんな目にあったと思ってんだ!?」


 グリムナにもようやく話の流れが見えたようであるが、彼はそれと同時に切れた。アムネスティはそれの驚いて思わず後ずさりし、同時に自分の足に躓いて転びそうになったが、それを慌ててグリムナが抱き留めた。


「す、すまん。大丈夫か? けがはない?」


 抱きしめるようにアムネスティの体を支えるグリムナと彼女の顔の距離は十数センチしかない。アムネスティは首のあたりまで真っ赤に紅潮して、そのままカクン、と失神してしまった。意図してやってはいないのだが、この女、本当にちょろい。


 アムネスティは後から来たレイティとカマラにずるずると引きずられて退場していった。グリムナは「はぁ」と大きなため息をついてから退場しようと思ったが、またもや衛兵に呼び止められた。


「なんだよ! 今ので最後って言っただろ! もう疲れてるんだから休ませてくれよ!!」


「今しがた一件増えたんですよ。後に回すと二度手間になるから、もうここでそのまま面会しちゃってください」


 しばらく衛兵とグリムナが言い争っていると、またもノックの音なしにガチャリとドアが開いた。


「やっほー」


 フィーがドアからひょい、と顔を出した。本日二度目である。彼女は部屋に入ってきながら話した。


「いやー、あはは、さっき差し入れの物渡すの忘れててさ……」


 へらへらと笑いながらかばんの中からごそごそと何かを取り出す。電話を掛け直す感覚で面会の申請をするな。


「はい、まずこれ。暇な時間多いだろうし、本の差し入れ」


 グリムナは中身のページをぺらぺらとめくって見る。


「なになに? グリムナとブロッズは互いの立場も忘れ、再会の喜びに抱きしめ合い……ってこれ、お前の書いたBL小説じゃねーか!! 誰がこんなもん読むか!!」


 差し入れに相手のことを題材にしたナマモノBL小説を持ってくるとは、なかなかに豪胆な女である。


「あと、それ読んでムラムラしてきたら、これ使って……」


 フィーはカバンからさらに粉の入った小瓶を取り出した。


「スライムローションはいらねーよ! まだ持ってたのかよ!!」


 グリムナが小瓶を壁に投げつけると、フィーは慌ててそれをキャッチした。


 彼は体力をこの面会だけで大分消耗してしまったが、彼の取り調べはこれから始まるのだ。

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